
岸田文雄首相は2月、政府がアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の購入を計画していると明らかにした。アメリカとの間で23年度に契約を締結し、400発を取得する予定だ。長距離を攻撃する「スタンド・オフ・ミサイル」をイージス艦に配備し、対中国の抑止力を強化したい狙いだ。
◆1600キロ先の目標を攻撃するトマホーク
トマホークはアメリカで開発されたミサイルであり、長い射程により敵の射程外から攻撃可能だ。米技術解説誌のポピュラー・メカニクスは、ブロックIVおよびVと呼ばれる最新型では、その射程が1000マイル(約1600キロ)以上に及ぶと報じている。命中精度は指定地点から10メートル以内、GPS誘導の場合は0.1メートル以内という正確性を誇る。アメリカは過去に2000発以上を使用しており、その性能が実戦で証明されている。
専門家は米ワシントン・ポスト紙(2022年12月12日)に対し、トマホーク搭載に向け既存の駆逐艦を改修することを考慮すると、防衛省にとって10年がかりのプロジェクトになるのではないかとの見解を述べている。
◆中国本土を射程に収める能力で抑止力を高める
日本側の匿名の関係者はワシントン・ポスト紙に対し、トマホークに白羽の矢が立った理由について、「戦闘での実績がある長距離射撃」の兵器だからだと説明している。これに加え注目されるのが、中国本土への攻撃能力だ。同紙は、現在日本が保有するミサイルについて、日本の領土付近の敵を攻撃するものであると解説している。それに対し、「射程距離が1000マイルを超えるトマホークミサイルは、中国本土の軍事目標を射程に収める」ものであると記事は指摘する。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の日本担当であるクリストファー・ジョンストン氏は、「日本が独立して反撃できるようになることで、東アジアの抑止力に相当な貢献となる」とみる。
◆攻撃的な兵器を避けてきた日本
トマホーク購入の動きは、日本の防衛重視の考え方が変化していることを示すとの指摘がある。ワシントン・ポスト紙は、トマホーク購入は日本の長距離攻撃能力を高める結果となり、「攻撃的な兵器を避けてきた長い伝統との衝撃的な決別を意味する」と述べている。こうして自立した攻撃能力を高め、抑止力を確保する動きは、アメリカ側の意向と合致するものだと同紙は論じる。匿名の米当局者は同紙に対し、「アメリカは一方的に手段を講じているだけはない」と説明している。東アジア地域における同盟国の役割を拡大し、アメリカとともに対中国の抑止力を高めることを米側は期待している模様だ。
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◆「『中国の脅威』という誇大広告」
一方、中国人民解放軍の公式サイトであるチャイナ・ミリタリー(2月21日)は、中国社会科学院大学の国立国際戦略研究所で研究助手を務めるヤン・ダンジー氏による記事を掲載した。このなかでヤン氏は、日本がトマホークを購入する理由の一つを「いわゆる『中国の脅威』という誇大広告を続けるためである」と批判している。
攻撃能力の拡大についてヤン氏は、「日本の自衛隊が『専守』から『防衛と攻撃』の機能にシフトしている」という「危険な兆候」の現れであると否定的に報じている。