そんな事件を鮮やかに解決してSNSを賑わせている、ある1人の男がいた―。
彼の名は光城タツヤ。職業は、探偵。
実はタツヤ自身も、未解決な恋愛事件を抱えていて…?
あなたも、この事件の謎を一緒に考えてくれないだろうか。
▶前回:毎晩、彼の部屋に通って愛を確かめ合ってきたのに…。ある日突然、女から連絡を断ったワケ
彼の秘密を知ってしまった女・咲良(27歳)
5年前の春。暖かい日差しが差し込むベッドの上で、私は考えこんでいた。
― 言わなければいけない、いつか。
私は彼氏の竜也と、付き合って2年になる。今年で27歳。「彼と結婚したい」という気持ちは日に日に大きくなっていた。
しかし私には、竜也に隠している重大な秘密があったのだ。
その秘密を知ったら、彼は私に幻滅するかもしれない。もしかしたら、離れていってしまうかも…。そんな不安を抱え、竜也に秘密を打ち明けずにいたある日。
彼がベッドサイドの棚から、婚約指輪らしき赤い小さな箱を取り出すのを見てしまったのだ。
― 竜也も、私との結婚を考えてくれてる…?
だから私は、ちゃんと彼に秘密を告白しようと決めた。
「…あのね。私、あなたに伝えなきゃいけないことがあって」
ベッドから起き上がり、ネクタイを締める竜也の背中を見つめた。しかしタイミング悪く、ベッドサイドにあった彼のスマホが震える。
「わっ、ごめん。会社から電話だ!また今度話してもらっていい?先出るね!」
そう言って竜也は、慌てた様子で出掛けていってしまったのだ。
「また言えなかった…」
部屋に取り残された私は、枕元にあったスマホを手に取る。すると、意外な人物から着信が入っていたのだ。
「えっ…。それ、本当?」
「あぁ、間違いない」
あまりの衝撃に、私は大きな声をあげる。着信の相手は、竜也の同僚である中村くんだった。
「俺も信じられなくてさ…」
電話口の彼は、とても疲弊した様子だった。そして震える声で、信じられないことを話し始めたのだ。
「竜也の浮気相手は、俺の彼女の美里なんだ。今週金曜の20時に、丸の内のイタリアンで会う約束をしてる。スマホで頻繁にやりとりしてるのも見ちゃって」
「嘘でしょ…?」
私は言葉を失っていると、中村くんが「当日、店に行ってみたらわかることだ」と投げやりに言った。
◆
「丸の内まで、お願いします」
金曜日の19時過ぎ。私は会社からタクシーに乗り込むと、中村くんから聞いたイタリアンレストランへと向かっていた。
疑いたくはなかった。だけどどうしても、自分の目で確かめないと気が済まなかったのだ。
「降ってきましたねぇ…」
タクシーの運転手が独り言のようにつぶやく。フロントガラスにポツポツと落ちてきた雨粒は、やがて土砂降りになった。…悪い予感ばかりが頭をかすめる。
― あぁ、ダメだ!
不安を振り払うように、私はスマホを見つめる。
そして昨晩、竜也から送られてきたLINEのトーク画面をさかのぼった。そこには「明日の夜は、同僚と飲みに行く」と書いてある。
「着きましたよ」
タクシー運転手の声で我に返る。そして私はゆっくりと、レストランの中を覗き込んだ。
「嘘、でしょ…」
そこには談笑する竜也と、美里さんの姿があったのだ。
入ろうか、入らないでおこうか…。私は大雨の中、しばらく1人で立ち尽くしていた。
そのうち2人は赤ワインを注文し、料理の注文を始める。はたから見れば、立派なカップルに見えるだろう。
私は傘もささずに、レストランの前に立っていた。道行く人たちが怪訝な顔で私をチラチラ見ている。
― どうしよう。今からレストランに入って竜也に問い詰めようか。
雨なのか涙なのかわからない雫が、頬を伝う。ここまで来たし、白黒ハッキリさせよう。そう決心してレストランのドアを開けた、そのとき。
「咲良ちゃん…!」
私を呼び止める声がした。振り返ると、そこには中村くんが立っていたのだ。
「もういい。行こう!」
彼は私の手を掴むと、優しく自分の傘に招き入れた。その瞬間、我慢していた涙がさらに溢れる。
中村くんは私の肩をさすって、タクシーで家まで送り届けてくれた。彼も恋人に浮気されて、悲しいはずなのに…。黙って、私の話を聞いてくれたのだった。
その車内の中で、私は中村くんに自分の秘密を打ち明けた。一瞬驚いたような顔を見せた彼だが、すぐに冷静な声でこう言った。
「あぁ。それ、竜也は気づいてたよ。それで咲良ちゃんと別れたいって言ってたんだ」
「え、ほんとに…」
「うん。いつ切り出そうかって迷ってたよ。咲良ちゃんとの将来は考えられないって。それで竜也は、美里と…」
その言葉に私は、先日竜也が隠し持っていた婚約指輪のことを思い出した。
― 竜也は、美里さんにプロポーズしようとしていたんだ。
もう一度、彼と交わした最後のLINEを見てみる。今見返してみると、私が送ったメッセージに不信感を抱いているようにも思えた。
彼はとっくに、私の秘密を知っていたのだ。
「もう終わりにしたほうがいい。これ以上、竜也も咲良ちゃんも苦しんでほしくないんだ」
中村くんのその一言で、私は竜也のLINEをそっとブロックした。
そして私は、彼の前から姿を消したのだった。
▶前回:毎晩、彼の部屋に通って愛を確かめ合ってきたのに…。ある日突然、女から連絡を断ったワケ
▶1話目はこちら:同棲中の彼女が、いきなり帰ってこなくなって…?男が絶句した、まさかの理由とは【Q】
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咲良が隠していた秘密とは…?