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「低スペックの男とは、恥ずかしくて結婚できない。最低でも早慶以上!」私立育ちのお嬢様の本音

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「低スペックの男とは、恥ずかしくて結婚できない。最低でも早慶以上!」私立育ちのお嬢様の本音

東京都内には、“お嬢様女子校”と呼ばれる学校がいくつもある。

華やかなイメージとは裏腹に、女子校育ちの女たちは、男性の目を気にせず、のびのびと独自の個性を伸ばす。

それと引き換えに大人になるまで経験できなかったのは、異性との交流だ。

社会に出てから、異性との交流に戸惑う女子は多い。

恋愛に不器用な“遅咲きの彼女たち”が手に入れる幸せは、どんな形?

▶前回:交際1年の記念日ディナー。プロポーズを期待していたが、彼の口から出たのは意外な言葉で…



親の顔色をうかがって生きてきたキャリア女子:夏帆【後編】


「今回の評価理由をお聞きしてもいいですか…?」

「一緒に働いている人からの意見を参考にしているよ。

君の仕事ぶりはあまり評判がよくないみたいだから、もう少し頑張ってもらわないと」

淡々と語られる鈴木課長の曖昧な理由に、悲しさよりもいら立ちが募る。

年2回行われる考課面談で告げられた、これまで約10年働いてきて一度も聞いたことのない最低評価。

鈴木課長は、2ヶ月前に他部署から異動してきた。

彼は現場に入らずマネジメントのみをしているが、会議に同席することもなければ、個別にコミュニケーションを取って仕事状況を把握しているわけでもない。

まだ36歳で、課長にしてはかなり若いので仕事ができるのかと思ったら、他人の意見をうのみに評価を下すらしい。

― そうやって自分の目で見ないで人を判断するなんて…最近そんなことばっかりじゃない…。

広告代理店での仕事は好きでやりがいもあるし、お給料だって高い。それでも、ここで働くことに意義を見いだせなくなるほど、理不尽に感じることも多い。

デスクに戻ると、隣の席の先輩女性から話しかけられる。

「夏帆、やっぱりあのいけ好かない鈴木課長になんか言われた?」

「どうしてですか…?」

少し椅子を近づけて、小声で先輩は話す。

「夏帆が動かしてるプロジェクトにアシスタントで入ってた真子、鈴木課長と先月入籍したんだって」


「真子って社長の娘でコネ入社らしいよ。旦那の課長昇進だって、どうせ嫁の力でしょ。

仕事のできないアシスタントをつけられて、夏帆も災難ねってみんな心配していたけど、今度はその女の旦那が上司になるなんて、やりにくすぎるわよね…」

私は、真子のためを思って時に厳しく指導してきた。しかし、上昇意欲のない真子には、煙たがられていた。

だから、真子が異動すると聞いた時は、肩の荷が下りると安心した。

― でも、まさかあの課長と結婚していたなんて…。



「夏帆のその評価も、嫁がどうせ文句言ったのをうのみにしてるんじゃない?」

「たしかに…」

「真子と働く人がやりにくくなるし、いいことないのに、そんな忖度が働くこの会社に未来なんてないわね…」

先輩の言葉が胸に刺さる。

大手が安定していて安心だという両親の意見を尊重し、私はこの会社への入社を選んだ。

人気企業でネームバリューもあり、友人たちから受けた羨望のまなざしに、承認欲求が満たされたことをよく覚えている。

だけど、大手ならではの不健全な体質もある。

仕事ができなくても、努力もせずに有名企業に入社し、美人だからとちやほやされ、ちゃっかり優秀な鈴木課長と結婚したという真子。

彼女を見ていると、女子校から共学の大学時代にいったときに出会った女性のことを思い出す。

― 私は、ああやって可愛げを出して、男性に頼ったりするの苦手だけど…。結局、真子みたいな子が幸せをつかむんだよね。

女であることをうまく使うということが悪だと思い込んでいたから、私は32歳になってもまだ、独身なのかもしれない。

心の底では、真子のことが羨ましいと思っている自分がいることに気づいた。



「夏帆、なにかあった?」

恋人のコウキの家に帰ると、すぐに声をかけられる。彼は私の喜怒哀楽を察するのがうまい。

ソファに並ぶように座り、今日起こったことを話す。



「理不尽なことを言われたのは明白なんだから気にする必要ないし、今の会社に不満があるなら、転職するのだって悪いことじゃないと思うよ」

安定と堅実ばかりを無意識に選び取ってきた私には、なかなかハードルの高い決断だが、今のままでいいのかという葛藤は日頃からたしかにある。

「転職を考えるなら、やっぱり家族に相談するの?」

想定していなかったコウキからの質問に、急に心臓が激しく動き出す。

「もし反対されたら、諦めるの?」

コウキから私に立て続けにかけられるその言葉は、両親にコウキとの交際を反対されていることへの問いであるようにも感じられて、なんと答えていいかわからず、ただコウキを見つめる。

「親に反対されて、一緒にいられないかもしれないって言葉が胸につっかえて、夏帆を見るたびに思い出す」

「ごめんなさい、私、コウキを傷つけてしまったよね」

「これは夏帆の人生。僕のでも、両親のでもない。だからそれがどんな結論であっても、夏帆自身で決めて生きてほしい」

「そんなことわかってる!…けど、正直言うと、私、これまで親が勧める道を歩んできたから、自分の決断に自信持てないの」

自分の中で気づいていながらも逃げていた事実を、コウキがあまりに的確に言葉にするものだから、なんだか悔しくて思わず声を荒らげる。

「これから先も自分でなにも決められないなら、僕とはきっと一緒にいられない。それならもう終わりにしよう」

思いも寄らぬコウキの言葉に、これまでの私の生き方がいかにふたりの未来にとって障害になるかが突きつけられる。

― ここで両親の反対に従ってコウキと離れたら絶対に後悔する。そして一生両親のせいにしてしまう…。

これまでの交際相手は、自分と似たような環境で育ってきた人ばかりを選んできたし、それが両親も認めてくれる“私にふさわしい”相手であると思い込んできた。

でもコウキは、私とは全く異なるからこそ魅力的で、尊敬できる。自分の人生において必要な存在だ。

「私、仕事もコウキのこともちゃんと決着をつけてくるから、少し時間をちょうだい」


両親との話し合い


両親とコウキの件で衝突してからしばらく寄っていなかった実家に3ヶ月ぶりに帰った。

「ただいま。お父さんとお母さんが好きな『ノワ・ドゥ・ブール』のフィナンシェ買ってきたから、終わったらコーヒーでもどう?」

庭で植栽の手入れをしている父に声をかける。

「いいね。もうすぐ終わるから、準備しておいて」

いつも通りに振る舞ってくれる父の様子を見ながら、家に入る。



私は両親にコーヒーを入れたあと、自分から本題に入った。

「この間は嫌な帰り方をしてごめんなさい。いろいろ考えて…伝えたいことがあるの」

その言葉に、両親は静かにうなずいた。

「私、無意識にお父さんとお母さんが喜ぶ選択してきたの。進学も就職も…。結婚相手だって、最低でも大学は早慶以上で、一流企業に勤めている人がいいと思ってた。そうじゃないと恥ずかしいって」

「夏帆には幸せになってほしいからこそ、求めてしまうことはたくさんあったかもね」

母はぼんやりとこれまでを振り返るように呟く。

「私も、お父さんとお母さんが認める選択であれば間違いないと信じてきたからこそ、自分でなにも決められない大人になってしまったんだって、やっと気づいたの。

でも、この先の私の幸せは、私が決めたい」

「夏帆の幸せを願うからこそ言ってしまうけれど、それをすべて受け入れる必要なんてないよ。

でも、夏帆を想って伝えたことは間違いではないから、それだけは知っておいて」

寡黙な父がこうやって感情を言葉で紡ぐのは珍しく、両親の想いに支えられてきたことを実感させられる。

「これからもふたりに相談することも、意見を聞くこともあると思う。でも必ずふたりの望むことを選べないかもしれない。

それでも、私の決断を尊重して」

私が伝えた言葉でなにかが大きく変わるわけでもないし、これまで通り私は両親に相談したり、それを参考にしたりすることもあると思う。

それでもこの決意表明が、自分の人生は自分で決めるという、当たり前だけれど私にとって難しかったことを実現させる、第一歩のように思えた。



「服、変じゃない?」

「大丈夫、似合ってるよ」

今日はコウキが私の実家に初めて挨拶に来る。



「もしなにか嫌なことを言われても、私は絶対にコウキの味方だから」

「夏帆からそんな心強い言葉が聞けるようになるなんて思わなかったよ」

両親に自分の思いを打ち明けてから2ヶ月。

コウキと住む新たなマンションの契約を終え、それぞれ一人暮らしのマンションは手放した。

そして私は新卒で入社した会社を来月退職し、フリーランスとしてイベントのプランニングの仕事を始める。

心機一転、すべて自分で決断した新しい人生が始まる。

「コウキのおかげで、私いろんなことに気づけたの」

「思ったことを正直に言っただけだし、夏帆になにかを気づかせたいと意図したことはないよ」

「そうだね。でも、日常の中で気づきを与えてくれるコウキだからこそ、私はこの先も一緒にいたいと思えたんだよ」

この先誰が敵に回ろうと、私は絶対彼の隣にいるのだと、はっきりと思えた。

― 価値観が似ている人こそ安心できる存在だなんて思い込んでいたけど、私にはそんな刺激がない日常はつまらない!

安定も堅実さももういらない。

これまで気づいていなかっただけで、本当は刺激を求める人間だったのかもしれない。

32歳、ようやく本当に心から愛する、私とは全く違う人生を歩んできた彼と共に生きるために、自分の意志で次のステップへと踏み出そうとしている。


▶前回:交際1年の記念日ディナー。プロポーズを期待していたが、彼の口から出たのは意外な言葉で…

▶1話目はこちら:「一生独身かもしれない…」真剣に婚活を始めた32歳女が悟った真実

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