劇作家・演出家で俳優の黒田勇樹が演劇界における真の男女共同参画を実践!? 黒田は自身が脚本・演出を務める三栄町LIVE×黒田勇樹プロデュースvol.13「シン・デレラ」が2月21日からスタートするのだが、主演に妻の珠居ちづるを起用、子連れで稽古という新しい試みにチャレンジしている。黒田にその経緯、実際の稽古の様子などについて聞いた。

女性が育児に専念しないといけないというのはちょっと違うと思った
まずはなぜ子連れ稽古という形を取ろうと?
「息子も2歳になって、最近は家でも映画などをおとなしく見られるようになったんですが、明らかに面白いものは一生懸命見て、つまらないものはすぐに飽きるんです。“これは稽古場に連れて行ったら面白いのではないか?”というのがまず最初。案の定、稽古場の空気が変わった時とかに静かにし始めたりするし、笑ったりもする。そして2歳の彼が笑った時に俳優たちがすごくうれしそうな顔をするんです。ある程度は想像していたんですが、それを見て“そうだ。この感覚を忘れないで今回は1作品作ろう”と改めて思っています」
そういう意図でやろうと思ったことについては最初の顔合わせで出演者に話した?
「顔合わせでちょっと言ったくらい。出演をオファーする際にはあまり言ってないです」
みんなは「あれ? 子供がいる」って感じ?
「今回のキャストは半分がこちらからのオファーで、半分がオーディション。特にこちらからお願いをした方々には説明しておいたほうがよかったかなという気持ちもあったんですが、正直な話、妻をキャスティングするかどうかもオーディションするまでは決められなかったんです。妻をキャスティングするには子供を連れて稽古をしなければいけない。そういう順番でした」
オーディションで奥さんを超える存在がいたら、キャスティングすることはなかったかもしれない?
「妻を出したいという思いは強くあったんですが、どうしても出てほしい人が“稽古場に子供がいるのは嫌”と言ったら、その優先順位はすごく難しかったかもしれないですね」
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そしてオーディションの結果、奥さんに出演を依頼することになるわけですね?
「僕が舞台を作って、妻が子育てをしていることにみんなが当たり前みたいな顔をしているんですが、僕は以前から“この人は本当は自分も舞台に立ちたいと思っているんだろうな”と思っていたんです。子供を産んだからって女性に育児に専念させる、女性が専念しないといけないというのはちょっと違うな、という思いもありました。そうなると方法は2つ。すごくお金を稼いでベビーシッターを呼んで妻を舞台に立たせるか、僕がそういう現場を作るか。今できるのは後者だった。それに、今回は僕のことが取り上げられて話題になりましたが、子連れ演出家というのは意外に結構いるんです。奥さんが制作さんだったりとか。本当は演劇の現場も開かれてきているんですが、そうではないと思われている。その中で僕がアイコンになることによって、そういったケースがあることを世間に知ってもらえるのではないかとも思いました」

問題は安全面。子供にケガをさせたらダメ
子供を好きか嫌いかというのはそれぞれの考えの中で持つのは自由ですが、そういう現場が増えることで“俺、子供ダメなんだよね”とは言いにくくなる。そうなると育児をしながらも女優が復帰しやすくなりますね。
「ここで問題になるのは好き嫌いというより安全面ですね。安全面を守れるか。2人とも俳優だったらできなかったと思う。もっと掘り下げると、裏方さんは子供を連れてきてもいいのに、出演者は子供を連れてこれないのか?ということにもなりかねないので、まだ全然テストケースだと思っています。うちでやってみて、いいことも問題点も出てくると思うんですが、次に同じことをやろうとしている誰かのいい材料になればと思っています」
確かに「うちもやってみよう」という人は増えてくるでしょうね。
「そうですね。でも、例えば殺陣の稽古をしている最中に子供を歩かせていて、ケガをさせたらダメなんです。今回も本当は本番で客席に子供を入れてもOKにしたかったんです。お客さんが子供を連れてきてもいい日を作りたかった。でも演劇って未就学児童はダメなんです。これは劇場内の配線だったり、劇場の構造といった面で安全の確保が間に合わないので、今回はできないということになりました。なので話し合いで稽古までということになった」
演劇が未就学児童がダメというのは突然泣き出したりといった理由だけではないんですね。
「そういうことへの配慮もありますが、もう一つ安全面という理由もあるんです。それは僕も勉強になりました」
今回、奥さんを起用するにあたり家庭内ではどういう話し合いが?
「そもそも“ちづるちゃん主役で作品ができたらいいなと思っているんだけど、その時、息子を連れてやれるかな?”といった話をしていたんです。その時は超やりたそうな顔をしていて“女優だな”と思いました(笑)。これは女優と結婚した男の責任です」
いざやってみて、どうですか?
「家では“段取りがつくまでは演出家のほうが偉くない?”って話したりするんですが、お互いにイニシアチブの取り合いです(笑)。どっちが家事の何をするか、どっちのためにどの時間を使うか、とか」
