【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、生きにくい世の中で必死にもがきながら生きる男女の人間ドラマ『スクロール』(2023年2月3日公開)。YOASOBIのヒット曲『ハルジオン』の原作『それでも、ハッピーエンド』の著者として知られる橋爪駿輝さんの同名デビュー小説の映画化作品です。
北村匠海さん、中川大志さん、松岡茉優さん、古川琴音さんという若手の演技派4人が結集した映画ですから、見応えありましたよ!
では、物語から。
【物語】
〈僕〉(北村匠海さん)は就職したものの、上司のパワハラに悩まされてうんざり。そんな日々をSNSに投稿し、うっぷんを晴らしていました。その投稿に共感したのは、特別な人になりたいと思っている〈私〉(古川琴音さん)。
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いっぽう、〈僕〉の大学時代の友人・ユウスケ(中川大志さん)は、何よりも楽しい “今” が大事。女性と深い関係になっても結婚する気はなく、トラブルが絶えません。
結婚願望が強い菜穂(松岡茉優さん)は、ユウスケと付き合うようになり、彼が軽く「結婚」の2文字を出したがために、ユウスケとの結婚を強く望むように。でも結局、結婚話はスルーされつづけ、心が壊れていきます。
そんな彼らが、〈僕〉とユウスケの大学時代の友人の自殺をきっかけに「生きること」と向き合うようになるのです。
【友人の自殺から生きることの意味を考える】
元気が出る、やる気が出る、癒されるという作品は多いけど、映画『スクロール』は「しんどいことを見ろ!」とネガティブな現実を突きつけてくるような作品です。モヤモヤする気持ちって、早く払拭したいし、忘れたいじゃないですか。
でもこの映画の登場人物たちは、そんな気持ちに向き合うのです。
〈僕〉と〈私〉は、思っていることを表に出せず、心の中で叫んでいます。それがSNSでの発信に繋がっていくのですが、言いたいことがあっても、環境や立場や周囲の視線を気にして言えない、行動できないことは誰にでもあると思う。そんな鬱屈した気持ちに共感できましたね。