
「あなたが生まれた国をこの目で見たい」異国の地アルゼンチンでの体験一つ一つが、彼との思い出を裏づける―― ポジティブな生き方への第一歩を描いた小説。※本記事は、貝谷京子氏の書籍『ポジティボ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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「私、カメラこれしか持ってないよ」
「写真なんて、いらない、いらない」
「だって、残しておきたいでしょ、行った先の思い出」
「人間には記憶力ってものがあるのよ。それに、今時、パソコンで検索したら、いくらでも写真は見られるって」
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「でも、自分で撮ったのとは違うでしょ。そこにいた自分が撮ったっていうことが大事なんじゃないの。写真って」
フリオに私が見たブエノスアイレスを見せてあげたいということはまだ言えない。
「撮りたければ、撮ればいいけど。持ち歩くのは危険だということは、頭に入れておかなきゃダメ。狙われたらアウトだからね」
日本人は特に狙われやすいのだと、彼女は念を押した。
彼女の言った通り、ブエノスアイレスまでの飛行機でも隣同士になり、今度はエセイサ空港までの十時間、彼女と語り明かした。
彼女は、ブエノスアイレスで暮らすまでのいきさつを語り、私はブエノスアイレスに行くことにした思いを語った。彼女には二人の娘がいた。私は結婚もしていない。けれど、同い年だった。