
脳科学者である茂木健一郎氏は、「本当に賢い人は『セオリー・オブ・マインド』を持ち合わせている」といいます。セオリー・オブ・マインドとはいったいなんでしょうか。天才物理学者アインシュタインの逸話とともに、その正体をみていきます。※本連載は、茂木健一郎氏の著書『「本当の頭のよさ」を磨く脳の使い方 いま必要な、4つの力を手に入れる思考実験「モギシケン」』(日本実業出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。
“ピンときた”の正体は「前頭連合野」
セオリー・オブ・マインド(Theory of Mind)、日本語では「心の理論」ですが、人の身振りを見て心を推測できる能力のことです。
笑顔だったら嬉しい、泣き顔だったら悲しい、でも口元は微笑んでいて目には涙が浮かんでいて手に花束を持っていたら「感動」とか、見た目の表情から相手の心の動きを洞察する。つまり、「顔を見ていたらピンときた」とか、「あの子を見ていたら、なんとなく助けてあげたくなった」という感情の正体ですが、それが脳の「前頭連合野」の働きであることが最近になってわかってきました。
前頭連合野(ぜんとうれんごうや)というのは、脳のいろいろな場所に保存されている情報を集めて一時的に保存し、その情報を組み合わせたりばらばらにしたりして、物事を検討したり予測したりする機能を持っています。
つまり、前頭連合野の活動が活発であればあるほど、高度な情報収集、検討や予測、相手の態度から心を押し測ることなどが可能になります。アニマルスピリッツ※をコントロールする高度なインテリジェンスに必要なのが、このセオリー・オブ・マインド、すなわち前頭連合野の予測や判断です。
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※ 参照:第5回『イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ…時代を切り拓く成功者たちが持つ「野心」とは』
「解釈」だけでは知性不足…前頭連合野を活発にして「推測力」を高める
見たものを見たままに解釈する、たとえば、日本の経済状況を見て「あ、日本はもうダメだな。沈没船だ」と言っているだけでは、それはセオリー・オブ・マインドに優れているとは言えません。
「日本はいま、経済的に停滞している。でも半導体に関しては世界トップクラスの製造技術を持っているみたいだし、観光や介護といった分野での日本のホスピタリティは突出しているみたいだ。だとしたら、このホスピタリティが必要な分野のテコ入れを考えるのが国家再生の近道なのかな」とか、そういうふうに考えられる人は、セオリー・オブ・マインドに優れていると言えます。
「直感力」に長けていたアインシュタイン
相対性理論でおなじみの物理学者、アルベルト・アインシュタイン(1879〜1955)。僕が思うに、彼は非常にセオリー・オブ・マインドに優れていました。それを示す、こんな逸話があります。
「宿題を手伝ってほしいのです」…少女のお願いに応えたワケ
彼が一般相対性理論などを発表し、プリンストンで研究していたころ、アインシュタインの家の近所に小学生の女の子が住んでいました。この女の子は算数が苦手で、いつも先生に「どうして君は算数が苦手なのかな。君の家の近所には算数が得意なすごい人が住んでいるというのに……」と言われていました。