
一陣の風に吹かれたように心揺さぶられ、私は二十年前の大学時代を追想する。内気な私に、思いがけず声をかけてくれた純一。周囲の世界への壁を取り払い、人と交わる喜びや切なさを知る勇気を与えたそのときのひとことを、私は今、感謝とともにかみしめ、純一への手紙をしたためる。人生の様々な季節に吹く、様々な色の風に思いを馳せながら。※本記事は、はるのふみ氏の小説『一陣の風』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
一陣の風
琥珀色の風の時代
それまでぬくぬく甘やかされていた私はバイトすらまともにしたことがなかった。
不特定多数の人と話をしなければならないカフェでのバイトは内心心配だったが、始めてみると、驚くほどスムーズにコミュニケーションがとれた。これも、あの三人のおかげなのか。
「ふみちゃん、おはよう。今日は大学は休みかい?」
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「午後から行くよ」
「じゃあ、今から俺とデエトでもするか」
「バイトしてるじゃん。それにデエトって、誘い方が古っ」
以前だったら、赤くなって返事に困ってしまうだろう。でも、軽く受け流すことができる。
「はい。はい。そんなこと言ってないで、お仕事頑張って。いってらっしゃい」
笑顔で常連さんを送り出す。思ったより作業も手際よくできた。会話もスムーズで、マスターからも信頼されるようになった。驚くべき展開。あの何もできない引っ込み思案の私は、もういなかった。人生はわからない。人の本質は変わらなくても、スキルを磨くことで人との付き合い方は変わる。