
社会や経済の国際化とともに、司法も国際化され、各国の基準は徐々に一本化されつつある。司法の国際化に乗り遅れた日本は、いったいどう対処すればよいのか? 弁護士による「実用書」。※本記事は、秋山武夫氏の書籍『生司法の国際化と日本 法のグローバリズムにどう対処する』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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はじめに 急速に進む「司法の国際化」、日本に備えはあるか
薬や自動車でPL訴訟が起こされた日本企業は、何千億円もの和解金の支払を余儀なくされました。幹部がセクハラで訴えられ、メディアからの攻勢も受けつつ、これもまた多額の支払いを余儀なくされた例があります。
医療機器の販売に関し不正があったとして6億3000万ドル(約820億円)を超える賠償金を支払わされた日系企業では、社内のコンプライアンス部長が不正を告発し、“ご褒美”として5000万ドル(6億5000万円)も受け取りました。最近も、自動車部品の欠陥をめぐって訴訟が相次ぎ、日本の名門企業が倒産しました。
これらの事件を単に知識として受け入れ「アメリカは日本とは異質の国だ」「とんでもない訴訟大国だ」と単純化しても、学ぶことはできません。一見極端に見える訴訟例であってもその背景をよくよく探っていくと、「とんでもない」どころか科学的、合理的な判断であることに気づきます。根底にある考えを理解しようとせず「とんでもない」と思い込んでいる限り、米国での企業活動で一体全体どうしたら計算されたリスク回避ができるのかと、途方にくれるだけでしょう。
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「司法の国際化」「米国司法の世界スタンダード化」についても同様です。「米国はとんでもない国だから」と思考停止してしまえば、真の課題「司法の国際化」に向き合うことはできません。
世界進出している企業はもちろん、一見、日本国内だけで活動している企業であっても、実際は何らかの形で海外とつながっていることは少なくありません。日本がガラパゴス諸島ではなく、世界と関係を作りながら経済活動をしている限り、「司法の国際化」は私たちにとって必ず大きな課題になります。
「司法の国際化」の波は実に激しいものがあります。現実に日本の多国籍企業のコンプライアンスハンドブックは、多くの紙面が米国法の対応のために費やされております。しかし残念ながら多くの日本企業や日本国の司法への対応は、私の目から見れば極めて遅れています。日本が国際化の波の中で果たして生き残れるのか大いに疑問です。
日本は「司法の国際化」の波に乗り遅れるな
「司法の国際化」という黒船はすでに日本の目の前までやって来ています。黒船に対抗するには、日本も黒船を持ち、世界へ向かうしかありません。
明治維新の成功を見た福沢諭吉は、「東漸する西洋文明の脅威は西洋文明で対処するしかない」と『脱亜論』で喝破しました。危惧と愛国心による「攘夷思想」で「司法の国際化」や「米国司法」を否定しても、その進出を食い止めることはできません。日本も日本企業も事実上の「国際スタンダード」である米国司法を理解し、自ら活用して、対抗できるようにするのです。