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特別インタビュー:「Dr.コトー診療所」富岡涼(原剛洋役)【第2章】「Dr.コトー診療所」は、特別な思いが詰まった人生の財産です

キネマ旬報WEB

──剛洋としては……。
富岡 ものすごく苦しいですよね。お母さんのお墓に行って、うまくいかなかった今までの思いをいろいろと話す。だけど剛洋のことだから、多分、悪いのは自分だと思っているんですよ。自分の不甲斐なさを悔いてもいる。だけど、彼も人間なんで、コトー先生には、ちょっと優しい言葉をかけてもらいたいという思いもあったと思うんです。

──それは当然のことでしょう。
富岡 だけど、あのやさしいコトー先生にも、厳しい言葉を投げかけられてしまい、つらいことの連続だ、と。でも、剛洋は真面目なので、どうしたらいいのかを1から考え直す。そして、もう一度ちゃんとやり直さなきゃいけない、ここが踏ん張りどころだ、って。そういう強さがあったからこそ、その後、大学に戻って、もう一度やり直そうとしたのだと思います。

 

──剛洋が診療所の外に出て、“ドクターコトー診療所”と書かれた旗を見ますね。すると彩佳さんが話しかけてきて「あの旗は和田さんのところの子どもたちがリニューアルしてくれたの」って説明する。最初に作ったのは剛洋やクニちゃんたちなんですよね。どんな気持ちでしたか。
富岡 自分自身も剛洋と同じ気持ちで眺めちゃいましたね。複雑でした。「2003」だから19年前、剛洋は笑顔で、「先生、見て、見て。クニちゃんと一緒に作ったよ」ってみんなニコニコして(笑)。「五島」が「コトー」になっていて、先生だけが「いや、名前、違うんだけどなあ」って。

──そうそう(笑)。
富岡 そういう、活気あふれる島の人たちと打ち解ける第一歩みたいな状態があった。それを作ったはずなのに、今の自分は……みたいな。その剛洋の気持ちを考えると、自分まで複雑な気持ちになってきちゃって。

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──ここでの中江監督の演出も素晴らしい。安易な演出なら、ここでドラマのその一場面を回想として挿入してしまいそう。そうすると「説明」にはなるけれど、深さが出ない。映画では「見つめること」が重要だから、安易な説明にはせずに、中江監督はそれを富岡さんの演技に託した。そして富岡さんは見事にそれに応えた。
富岡 いやあー(笑)。まあそうなんですが……、そこまでできたかはわかりませんが。

──言葉にできない剛洋の気持ちはしっかり伝わっていました。

 

怪我をしている父親に声をかけられない
剛洋と剛利、親子の物語

──父と息子の話に戻るのですが、先ほど、富岡さんが言われたように、この状況に母親がいるとまたちょっと違ってくるんだろうなっていう感じがします。
富岡 確かにそうですね。

──男二人、無言で食事をしたり、一人で食器を洗っているお父さんの背中を剛洋が見たりする。ここでも剛洋の気持ちが、言葉がなくても本当に手に取るようにわかります。
富岡 背中を見ているけど声をかけられない、怪我している父に「大丈夫?」とは聞けない。それはお父さんも同じで、剛洋を心配してはいるけど、「お前は忙しいんだから、東京に帰れ」と言う。冷たいわけではないんだけど、昔から変わらない距離感がある。ドラマシリーズのときに、剛洋が、「お母さんのこと覚えてるか」ってお父さんに聞かれて、「すごく優しい顔してた」と言う。やっぱりお母さんがいるとまた違ったかたちで成長していたんだろうなと思います。
でも逆に、それがなくて厳しく育てたからこそ、人のことを心配する優しい気持ちを持った人間にもなれた。だからこそ、医者を目指したいと思うようになったこともあるのかなって、吉岡さんとも話しました。

──今回、剛利さんは冒頭で怪我をして自由に動けないこともあり、以前の強い漁師というイメージと変わって弱々しい感じもあります。息子として、老いた父親を見るのはどんな気持ちですか。
富岡 やっぱり心に来るものがありますよね。自分自身も、それこそ「コトー」のテレビシリーズを撮影していたときの自分の父の姿と、今の父を見ていると、自分が20年経っている分、父も20年、歳を重ねているわけです。ああ時間が経ったな、という感慨を抱きます。特に剛利さんの場合は、昔が強いイメージで、あんなに大きくて、シゲさんとやりあったりして(笑)、強い漁師のお父さんを小さい頃から見ているから、怪我して動けなくなっちゃって悩んでいるお父さんを見るのがつらい。お父さんも、そんな弱いところを、息子には見せたくないって思っていることを剛洋は感じているから、余計に声をかけられない。でも、本当に良くなってほしいとは願っている。本当につらい一家ですよね。

──だからこそ、剛利さんが言葉少なく剛洋に「ここはお前のうちだ。部屋もそのままにしてある」って話すシーンが感動的なんです。
富岡 はい。

──今回の映画を見て、「Dr.コトー診療所」という作品は、剛利と剛洋の父子の物語もしっかり描いていると、改めて感銘を受けました。

第3章へ続く

 


Ⓒ山田貴敏 Ⓒ2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
「Dr.コトー診療所」は全国東宝系にて公開中。

『キネマ旬報』1月上・下旬合併号では「Dr.コトー診療所」を大特集。吉岡秀隆(ロング)、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、筧利夫、朝加真由美、泉谷しげる、小林薫、中江功監督(ロング)のインタビューを掲載。くわしくは KINEJUN ONLINE にて。

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