■開口一番の挨拶に割れんばかりの拍手
「仕掛人・藤枝梅安」は、「鬼平犯科帳」「剣客(けんかく)商売」と並ぶ作家・池波正太郎の代表作。同名時代小説シリーズは累計発行部数600万部超えの大ヒットベストセラーで、これまで何度も映像化されてきた。この度、池波の生誕100周年を記念し、42年ぶりに銀幕に蘇った。豊川悦司が演じる藤枝梅安(ばいあん)は、人を助ける鍼医者でありながら、金で暗殺を請け負う「仕掛人」という裏の顔を持つダークヒーロー。相棒役で楊枝作り職人・彦次郎には片岡愛之助、料理屋・万七の女中、おもん役に菅野美穂、そして万七の内儀、おみの役の天海祐希といった、現在の日本を代表する名優が脇を固める。
豊川は開口一番「明日は立春ですけれど、ちょっと今日は寒いですよね。こんな寒い中、数ある映画の中で、この映画に足をお運び頂きありがとうございます」と、集まった女性ファンに挨拶。会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。
豊川は梅安を演じるにあたり「与えられた役の人がどういう悩みを抱えているのか。多分、自分の心境に隠していることを、どういう形で皆さんにお伝えするかを考えているんです。梅安に関しては、彼の中で正解を見いだせずに、それでも日々を過ごしているという点では、ある意味、とても現代的な男で、僕らと何ら変わることはない1人の中年男だと思います」と語ると「そういう話よりも、やっぱり素直にこの映画に入っていくことが大事で、世界に浸って頂ければ僕にとって一番の喜びです」と語った。
■相棒役の片岡は、豊川自ら指名
片岡は、仕掛け人として工夫をしたことについて問われると「まずは爪楊枝の作り方を勉強しました」と笑いを誘うと「あとは吹き矢の練習もしました。コツは回数を重ねるしかないですね。狙うところが口元からになるので、全くカンなんですよね。で、威力は爪楊枝なのに壁にプスッと刺さる位なんですよ。で、実際に当ててくださいと言われるんですけれど、僕は本当に当たらないように、若干横に逸れるようにしていました」と吹き矢の思わぬ威力を語った。
そして豊川は相棒役として片岡を指名したことを告白。2人の共演は初とのことだが、片岡は「あの豊川さんからお声がかかった時は(笑)」と驚いたとのこと。すると豊川は「梅安にとって、彦次郎は、ボーイズラブじゃないですけれども、同じ仕掛け人という仕事をしていることもあるでしょうけれど、どこか似た者同士で。だから2人で一緒にご飯を食べながら喋るところが多いんです」と話した。
このように池上作品において「食」は重要な存在。今回は、日本料理店「分とく山」総料理長による料理も見どころのひとつ。菅野は「私は女中なので、お運びなので、料理がすごくいい香りがするんですよ。手をつけることなく持って行っているんですけれど、蓋を開けるシーンがなくても、作ってくださっていて。そして湯気があるシーンでも、ドライアイスとか使うことなく、実際にお客さんにお出しする時と同じようなタイミングで作られて。大変なご苦労だったなと思います」と撮影秘話を紹介。片岡も「お料理が美味しそうなのと、何を出されているのかを、ぜひチェックしてください」とアピールした。
最後に見どころを尋ねられた天海は「全部です!」ときっぱり。菅野との共演は10年ぶりとのことだが「私自身もすごく楽しくて、すごく刺激を頂きました。そして10年で起きた色々な人生経験がお芝居に活きているなと思いました」と賛辞を贈った。
最後に豊川は「最初のシーンから、果たしてここは江戸なのか、それとも東京なのか、京都なのか、これは時代劇なのか、そうではないのか。この梅安の世界観を愉しんでくださればと思います。どうぞお楽しみください」と結びの言葉で締めた。
◆取材・文=栗原祥光