■『僕の彼女はサイボーグ』で本格的なアクションに挑戦
2004年に放送されたドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」や2006年放送の「白夜行」などでの薄幸のヒロイン役でお茶の間の人気を獲得し、「ホタルノヒカリ」や『プリンセス トヨトミ』(11)といったコメディ作品では、持ち前の“天然キャラ”を爆発させてコメディエンヌとしての才能も印象づけてきた綾瀬。だが、中学3年生の時に中国地区の駅伝大会に出場するなど、実はスポーツ万能。ジャンプして綺麗な弧を描きながら海に飛ぶ込むイオンウォーターのCM、陸上選手顔負けの美しいハードルジャンプをする生命保険会社のCMを見て、彼女の身体能力の高さを確信していた人も多いに違いない。
2008年公開の『僕の彼女はサイボーグ』は、そんな綾瀬が初めて本格的なアクションに挑戦したSFアクション・ラブストーリーだった。『猟奇的な彼女』(01)の韓国の鬼才クァク・ジェヨンがメガホンをとったこの作品で、見た目はキュートでかわいいけれど、人間離れした怪力で身体の大きな男を投げ飛ばし、高速で疾走するサイボーグの“彼女”を快演!ワイヤーアクションにも挑み、ぎこちないロボットダンスも披露していた。
■時代劇のダークヒーロー“ICHI”役でキレッキレの剣術アクションを炸裂!
また、同じ年に公開された『ICHI』では本格的な時代劇に初挑戦し、キレッキレの剣術アクションを炸裂させた。綾瀬が演じたのは、勝新太郎やビートたけしもかつて扮した、時代劇のダークヒーロー“座頭市”を女性に置き換えた盲目の市。ある男を捜して宿場町で流れ着いた彼女の過酷な運命が描かれたが、5~10人の野党集団を逆手持ちの仕込み刀で一気に斬り裂くシーンは、伏目がちな瞳と相まって実にクールだ。さらに、中村獅童が演じた野党の首領、万鬼とのガチバトルで手足に深い傷を負うシーンも生々しい芝居で体現。万鬼と再び激突するクライマックスでは、頭上から刀を振り下ろすパワフルなアクションで市の深い悲しみと怒りを伝えていた。
■NHK大河ドラマ「八重の桜」で銃を持って戦場に立った新島八重を体現
とはいえ多くの人が、綾瀬はるかが驚くべき身体能力とアクションセンスを持ち合わせていることを知ったのは、間違いなく2013年のNHKの大河ドラマ「八重の桜」の彼女を見た時だろう。同作では会津武士道の魂を守り抜き、戊辰戦争時には自ら銃を持って戦場に立った実在の女性、新島八重をリアルに体現。撮影前には射撃や薙刀の稽古にも励んだ綾瀬が見せるスピーディな銃さばき、しなやかな殺陣に誰もが息をのんだ。高所から飛び降り、最前線に踊り出た際の彼女のキリッとした表情に、時代を切り拓く“幕末のジャンヌ・ダルク=新島八重”の精神を重ねた人も少なくないはずだ。
■シーズンを重ねるごとにアクションが進化していった大河ファンタジー「精霊の守り人」
上原菜穂子の同名小説を全編4Kで実写化したNHKの大河ファンタジー「精霊の守り人」では、「八重の桜」で覚醒した綾瀬のアクションスキルが2016~18年にかけて3シーズン、全22話のなかでどんどん進化していくのも確認できて刺激的だった。架空の国が舞台のこの作品で彼女が扮したのは、王子チャグム(小林颯、板垣瑞生)と冒険の旅を続ける用心棒のバルサ。最初の頃は攻めてくる敵を短剣で次々に倒すシーンが多かったが、途中からそれがバルサの“人を殺めるのは果たしていいことなのか?”という思考を伴う深みのあるものに。それでいて、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)のシャーリーズ・セロンを参考にしたというアクションそのものは威力を倍増。馬上での戦いやボクシングのような肉弾戦にもノースタントで挑み、華麗な回し蹴りまで披露する綾瀬が最高にカッコよかった。
■銃撃戦に格闘技、関節技まで披露した「奥様は、取り扱い注意」
人気テレビドラマの劇場版『奥様は、取り扱い注意』(20)では、そんな綾瀬のアクションがハリウッド映画を想起させるスケールと世界観のなかで全開に!激しい銃撃戦から幕を開け、ドラマ版同様にFBIの訓練でも導入されている東南アジアの伝統武術カリとプンチャック・シラットがベースの足技や関節技で敵を撃破していく姿に圧倒される。さらにパートナーの勇輝(西島秀俊)と一緒に戦うドラマ版にはなかったシチュエーションが作品をよりドラマチックなものに。背中合わせになった2人が喧嘩しながら敵を簡単に仕留めていくところは、信長と濃姫が口喧嘩をしながらバトルする『レジェバタ』の前半のシーンとそっくりなので、本作を観た時に思い出してクスッと笑ってしまう人もいるかもしれない。
■綾瀬はるかが培ってきた演技やアクションのスキルが凝縮された『レジェンド&バタフライ』
ここまで、綾瀬のアクションが冴えわたる作品を振り返ってきたが、『レジェンド&バタフライ』には彼女自身が本作のジャパンプレミアでも語っていたように、今日までの映画やドラマなどで身につけてきた演技やアクションなどのスキルが凝縮している。そんななか、上記したアクションの見せ場は映画前半の信長との初夜のシーンでいきなり訪れる。木村扮する信長が背後から近づき、妻になったばかりの濃姫を押さえ込もうとするのだが、それを濃姫がスルリとかわし、信長を逆に制圧。武芸にも秀でた濃姫の一筋縄ではいかないキャラをこのシーン一つで印象づけ、それと同時に綾瀬のアクションのレベルの高さを再確認させた。
だが、それは必然だった。『レジェンド&バタフライ』は信長の天下統一を濃姫との恋のドラマと共闘を通して描くものなので、木村はもちろん、綾瀬のアクションに嘘があっては成立しない。逆の言い方をするなら、綾瀬のアクションは、本作の生命線の一つでもあるのだ。
文/イソガイマサト