
【新人作家、衝撃のデビュー作!】煌めく少女時代の危うさと切なさを、繊細な筆致で描いた純愛小説。※本記事は、元自衛官・夏緒冬弦氏の小説『百合墓荒らし』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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先にも述べた通り、彼女と遊ぶ時は大抵外で、それも家の裏手にある山に入ることがほとんどだった。そこで私たちは文字通り山を駆け回り、木に登ったり、秘密基地を作ったり……おおよそ男子がするような遊びに興じた。
遊ぶ内容を提案するのはいつもさよちゃんで、私はそれを無条件で受け入れるだけだったけれど……。
「ゆかちゃん! 木のうえにとりの巣がある! のぼってみよう!」
「落ちてるえだいっぱいあつめて、やねにするから」
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「うえまできょうそうね!」
「あっちの山のほうがたかいねー?」
「この花はねーユリっていうんだって! きれいだね! ……あ! あっちにもさいてる!」
「さっきのちょうちょどこいったのかな?」
客観的に見れば、それは「一緒に遊んだ」と言うよりも「引っ張り回されていた」というほうが正しい気がする。しかし、楽しかったことは間違いない。
確かに彼女の──都会から引っ越して来たとは思えない自然への順応とアグレッシブさには面食らったけれど、我儘といえるぐらい強引なところも彼女の魅力だと、当時の私はそう思っていた。本気で。それに魅かれていた。