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ドラマ『罠の戦争』快演が話題の本田博太郎(71)、知られざる46年の役者人生とは

日刊SPA!

ドラマ『罠の戦争』快演が話題の本田博太郎(71)、知られざる46年の役者人生とは

◆ベテラン俳優の飽きのこない演技

 草なぎ剛(48)が主演している話題作『罠の戦争』(フジテレビ系)でベテランの本田博太郎(71)が快演を見せている。

 草なぎが演じているのは政治家秘書の鷲津亨。本田はボスの内閣府特命相・犬飼孝介役だ。普段の犬飼は鷲津を虫けら扱いしながら、頼み事があると「わ・し・づ」と猫なで声を出す。ろくでもない政治家であるものの、本田が演じると、見ていて飽きない。

 昨年終了した『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)では神出鬼没の刑事部長・笹川健志に扮した。NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(2017年)では慈愛の精神を持つ商人・中村与太夫役を演じた。重々しかった。テレ朝『仮面ライダーカブト』(2006年)では地球外生命体・ワームと戦う秘密組織「ゼクト」の統括者・加賀美陸に扮した。謎めいていた。

 デビュー46年。善玉から悪玉まで、ありとあらゆる役柄を演じてきた。その実像はどんな人物なのだろう。トーク番組などにほとんど出演しないので、あまり知られていないが、シブイ人なのである。

◆10代で結婚、バイトしつつ俳優修業

 出身は茨城県水戸市。4人兄弟の末っ子で、母親が9歳のときに他界したことから、父親1人に育てられた。同市内の進学校・茨城高校を卒業すると、俳優になることを夢見て上京。荷物はバッグ1つで、布団はもちろん、茶碗もハシも持ってなかった。

 東京では自分で小劇団を旗揚げ。自主公演を行っていた。22歳だった1973年には名門・文学座演劇研究所に入る。1年上には故・松田優作さんがいた。もっとも、松田さんが1973年に『太陽にほえろ!』(日本テレビ)で華々しくデビューしたのに対し、本田は下積みが続いた。

 俳優修業に勤しむ一方、生活費を得るためにバイトにも励んだ。ふすま張り、大工、危険が伴う高層ビルの窓ふきなどをやった。10代で結婚していたから、なおさら稼がなくてはならなかった。

「疲労がたまって肺に穴が空いた」(『潮』2008年3月号)

 それでも誰にも頼れない。父親は既に亡くなっていた。「昔の苦労話を語るのは嫌い」(『週刊現代』2018年8月14日)というが、父親への思いは隠さない。2010年に地元・水戸などの幕末を舞台にした映画『桜田門外ノ変』に出演すると、その完成報告試写会で「台本の端に『亡き父に捧ぐ』と書きました」と明かし、関係者の胸を突いた。

◆完璧主義の演出家・蜷川幸雄に見出される

 下積みが報われたのは1979年で28歳のとき。東京・丸の内の帝劇での公演『近松心中物語』の主演に起用された。本来の主演俳優だった故・平幹二朗氏が病気で倒れたため、誰かが代わりを務めなくてはならならず、演出の故・蜷川幸雄氏が指名したのが無名の本田だった。説明するまでもなく、蜷川氏は演劇界の巨匠である。

 この舞台に本田は群衆の1人として出演する予定だった。本田よりキャリアが長く、知名度のある俳優の共演者もいたが、蜷川氏は本田を選んだ。当時の帝劇での最年少座長だった。

 それから半年後、蜷川氏は『ロミオとジュリエット』を同じ帝劇で上演した。主役のロミオにはやはり本田を起用した。完璧主義で知られる蜷川氏が、若き本田の演技を認めたのである。ただし、これを本田が誇ったことはない。

 同時期、映画界の巨匠も本田の才能を見抜いた。故・三船敏郎氏ら映画界のスターが勢ぞろいした『日本のいちばん長い日』(1975年)の監督で知られる故・岡本喜八氏だ。『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』(1978年)で、学徒出陣し戦死した法政大の名1塁手・本田耕一役で起用した。

◆伝説となった北京原人役

 真面目一徹の本田が気に入った岡本氏は数々のアドバイスを与えた。

「移動のときは車を使わず、電車に乗り、人間観察しなさい。いつでも気がついたことは書き留められるようにメモ帳を持ち歩きなさい」

 以来、本田はその教えを守り続けている。役の幅が広いのは人間観察の成果でもあるだろう。岡本氏はずっと本田を起用し続けた。

 TBS『3年B組金八先生』(1979年)の大ヒットによって巻き起こった空前の学園ドラマブーム下で作られたフジテレビ『ただいま放課後』(1980年)では主演した。ドンガメ先生こと教師の森雄太役だった。木訥で生徒思いの教師で、50代から60代には、この役の印象が強い。

 一方で映画『北京原人 Who are you?』(1997年)では北京原人に扮した。映画は記録的な大コケで終わったが、本田の演技は伝説的だ。原人が口にする言葉は「ウパー!」のみだが、本田はその感情を巧みに表現したからである。

 口さがない芸能記者らの間では「よく原人役など引き受けたものだ」という声もあった中、本人はこう話していた。

「ジャック・ニコルソンを見てください。狼男だって何だって、彼はやりますよね(注・1994年『ウルフ』)。役者というのは、いろんな顔を持って、腹の奥底では作品の上がりをほくそ笑みながら演じている部分があるんですよ」(『キネマ旬報』1998年1月15日号)

◆ベテラン風を吹かせたらお終い

 その後も役を選り好みしない。大御所と呼ばれてもおかしくない立場でありながら、今も『罠の戦争』の犬飼のように滑稽な役も引き受ける。

「ベテラン風を吹かせるようになったら、その時点でお終いだと思う」(『週刊現代』2018年8月4日号)

 本田が演じた役はちょっと見では善玉なのか悪玉なのか分からない。本田が演じると、役が生身の人間のようになるからだ。実際の人間も善の部分と悪の部分が混在し、単純ではない。

 だから脚本家の宮藤官九郎氏(52)らによるバンド・グループ魂が、本田をリスペクトする曲『本田博太郎〜magical mystery UPAAAAAAAAA!!!!!〜』を歌ったのだろう。

♪犯人に見えて犯人じゃないのか そう思わせといて やっぱり犯人なのか あー 分からねー 複雑すぎるぜ あんたの演技――

 仕事人間で趣味は書道くらい。愛妻家として知られる。本田の複雑な演技が堪能できるのは幸せなことに違いない。<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立

 
   

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