
相続の現場では、よくも悪くもいろんなことが巻き起こります。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。
姉が一番多い額を相続することで決まった。が─
これは、自分の思いを残すことの大切さがよくわかるエピソードです。
その相談は、普通は一番揉めると思われる預貯金の財産の相続が円満にまとまったあとに寄せられました。相談に来たのは、八〇歳のお母さんを亡くされた慶子さん。慶子さんには悦子さんと幸子さんという仲のよい二人の妹がいます。
お父さんは早くに亡くなっていて、慶子さんたち三姉妹も結婚して家を出ており、お母さんはずっと一人暮らしでした。それでも、三人とも近所に嫁いでいたこともあり、しばしばお母さんの様子を見に行っていました。
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お母さんは亡くなる少し前から入院生活を送っており、その時は慶子さんが一番お世話をしていたといいます。そのこともあり、お母さんの死後、財産として残された預貯金を分割相続する際には、慶子さんが一番多い額を相続することで全員が納得し、特に揉めることもなくスムーズに話がまとまったのだそうです。
姉妹を悩ませたのは「仏壇」
そんな三姉妹を悩ませていたもの、それは仏壇でした。亡くなったお父さんの手作りで、お母さんが毎日手を合わせていた仏壇です。
その仏壇を三姉妹の誰も引き取ることができず、かといって捨てるわけにはいかないと、私の所に相談にやってきたのです。私は相続診断士、行政書士としても活動していますが、普段は浄土真宗の僧侶をしているため、こんな相談に向いていると思われたのでしょう。
実は、相続の中で仏壇やお墓などを誰が受け継ぎ、守っていくのかという問題が起こることは少なくありません。
このような仏壇やお墓などは祭祀(さいし)財産といって、預貯金や不動産などの相続の中で見落とされやすく、遺族の間に遺恨(いこん)を生みやすいのです。
三姉妹には、それぞれが仏壇を引き取ることができない事情がありました。