
舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)、そして久留美(山下美月)。3人が一歩大きく進んだように見えて、壁に当たってしまうような気配を感じさせた『舞いあがれ!』(NHK総合)第83話。なんと久留美が八神(中川大輔)との婚約破談を一方的に伝えられてしまう。
顔合わせを一度でもしたことがある人ならわかると思うが、これは事前に結婚する2人がじっくり話し合って用意を進めていかなければならないものだ。ただでさえ緊張するし、ストレスを感じやすいイベント。それを緩和すべく、そして何よりお互いが(自分の両親も含めて)相手のご両親に認められたり好かれたりするために、事前に親の性格とか特徴を共有し根回しをする。この段階でまだ話しておきたくない地雷を指定し、そこに誰かが足を乗せないように当日は連携プレーで進めていく。そうすることで、誰も怪我をせずに戦場から笑顔で立ち去ることができるのだ。
ところが、久留美と八神の顔合わせにおいては連携どころか八神本人が現れなかった。1人だけやってきた八神の母・圭子(羽野晶紀)は店に入るなり、あきらかに不機嫌な様子。着ている優美な着物そのものが、その場をふさわしくないと言っているようなものだった。久留美曰く、もともと八神が良い料亭を予約すると言っていたのに、久留美の父・佳晴(松尾諭)が「ノーサイド」にすると言って聞かなかったようだ。
ただ、それだって八神が佳晴と直接会った描写がないため久留美を介して聞いたはずのことで、その時点で「自分の母親はキツくて厳格な性格だから料亭にしたほうがいい」と彼女に言ってあげれば良かっただけのことなのだ。さらに、圭子があらかじめ佳晴が定職に就いていないこと、離婚をしていることを知っていたのは、久留美が八神に話していたことを又聞きしていたからだろう。自分は相手の親の情報を自分の親に話しているのに、同じように久留美に一切自分の両親の話をしていなかった八神。
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冷静に考えれば、4年も付き合っていて、それが真剣交際だったのならなぜ両親に少しでも会わそうとしたことがなかったのか不思議だ。それに家柄が結婚に大きく関わってくることがわかっているのなら、それこそ事前に久留美と入念に打ち合わせをしながら「一緒に乗り越えていこう」と手を取り合うはずである。「うめづ」にて、舞と貴司の前で連発していた“愛”の発言も、こうなってくると一気にきな臭くなってくる。「うめづ」といえば、久留美が八神を連れてきたシーンは、以前舞が柏木(目黒蓮)を連れてきた時のことを彷彿とさせた。この2人は結局別れているため、カップルが「うめづ」でお好み焼きを一緒に食べると何かが起きるというジンクスになりつつあるかもしれない。
正直、久留美と八神が別れても何も驚かないし、そのほうがいいとさえ思ってしまう。八神は、「うめづ」で舞の兄・悠人(横山裕)に会ったとき「“こんなところ”で会えるなんて」と言っていた。「ノーサイド」に来た八神の母・圭子も「“こんな店”で」と発言していたわけだが、そういう部分からも八神の性根が窺えるのだ。
確かに、「ノーサイド」のようなカジュアルなカフェで顔合わせをするのは誰かにとっては“非常識”なのかもしれない。八神の母親側に立てば、佳晴の存在が不安要素になると考えるのも無理はない。実際、女性の足元にしがみついてしまったのも良くなかった。それでも彼が「ノーサイド」でやることに固執した理由を聞くと、切なくなる。自分のたった一つの誇りであり、自慢であるラグビーの話が自然とできるから。それだけの理由、しかし彼にとってはそれだけとは言えない理由なのだ。その一部始終をただ受け入れ、八神の母に謝らなければならなくなった久留美も気の毒で仕方ない。彼女だって他人から見たら父がダメな人間であることくらいわかるけど、それを謝りたくはなかったはず。しかし、結果的に無礼を働いてしまったため、それについて謝らなければならなくなった。
久留美がそんなことになっている一方、舞は無事に試作ボルトの序盤の試験をクリアしていく。しかし、ライバル会社である朝霧工業から嫌味を言われてしまった。貴司は貴司で、出版社の人に早速写真を撮られていて、「こんなふうに自分を売り出さなければいけないなら、僕はもういい」と賞を辞退してまた放浪してしまいそうな予感さえする。3人の行く末やいかに。(アナイス/ANAIS)