
インフレ率が4%に達しても、中小企業を中心に賃上げは難しい状況…。せめて手元の金融資産の目減りだけは阻止したいものですが、それには適切なリスク資産による運用が必要です。日本人は非常に慎重な国民性であることから、これらの運用に不安を感じ、踏み出せない人も少なくありません。しかし、経済学的な観点からの具体的な対処法が存在します。見ていきましょう。
行動経済学の知識を持ち、自身の心の動きを把握する
リスク資産による運用の不安は、知識、経験、資産が十分でない人ほど注意が必要です。「わからないものに感じる不安」は非常に影響が大きく、コントロールすることが必須です。そのため、メンタル面と運用スキル面の複数の対処策を組み合わせ、不安を小さくすることが大切なのです。
まず、メンタルな面で最近よく聞かれるようになった「行動経済学」の知識を知っておくことが大切でしょう。
行動経済学の研究では、人は損得の評価について「損失は利益のときに感じる喜びの2倍以上の痛みを感じる」ことが分かっています。つまり、損と得では、損失を大きく感じ取るようになっています。
この事実を知らないと、価格が下落する株式について、損切をすることの痛みを避けて、結局、「塩漬け」といわれる状況に陥ります。一方、価格が上昇すると、小さな利益でも十分であり、少ない利益で利益確定売りをおこなうことになります。いずれにしても合理的な行動とはいえません。
運用状況の「過度なチェック」は神経をすり減らすだけ
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そして、資産運用の状況を頻繁にチェックしないようにしたいものです。日本人は、米国人に比べて資産運用では安全志向が強いという研究があります。これは損失回避傾向が背景にあるのですが、この傾向は頻繁に価格のチェックをするほど強くなります。
この点を知らないと、投資経験の少ない人は資産運用を始めて間もない時期に価格下落を経験すると投資をやめてしいます。これでは資産運用には取り組めないことになり、2024年に拡大される少額非課税投資制度(NISA)も活用できません。
「損失限度額」を設定した、分散投資の方法がある
次に技術的な面での対処策ですが、まず、株式や債券を対象とした資産運用は、それらを損失限度額に応じておこない、元本保証の金融商品である銀行預金と分散投資することでしょう。
リスク資産への投資をおこなっても、概ねこれ以上の損失はないという損失限度額を設定した定期預金と内外の株式・債券への分散投資の手法は次のようなものです。
まず、内外の債券・株式に分散投資をおこなった投資をおこなう投資信託を用いた資産運用を考えます。この場合、想定される価格変動性は、わかりやすくいえば1年間に約10%以上の価格下落が起こることは十中八九ないという価格変動性を表しています(標準偏差で年率約10%)。そして、この場合、1年間に約20%以上の価格下落が起こる確率は約2%%であり、100年に2~3年程度の確率です。
たとえば、100万円のお金を銀行預金と内外の債券・株式での投資信託での運用にいかに分散させるかと考える時、許容損失額を仮に10万円としてみます。そして、この許容損失額を100年に2~3年の確率で守ることにします。