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夏木マリは若者成長ドラマの守護神 『夕暮れに、手をつなぐ』『おかえりモネ』での説得力

Real Sound

『夕暮れに、手をつなぐ』©︎TBS

 若者が子どもから大人へと成長する過程を描く上で、夏木マリの存在は欠かせない。

【写真】音(永瀬廉)と響子(夏木マリ)

 今年、芸能活動50周年を迎える夏木は、年齢を重ねれば重ねるほどに美しさを増す人生100年時代のロールモデルだ。そんな夏木が現在、毎週火曜日に放送中の連続ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)にレギュラー出演している。

 本作は北川悦吏子が『オレンジデイズ』(TBS系)以来19年ぶりにTBSで完全オリジナル脚本として手がけた青春ラブストーリー。九州の片田舎で育った浅葱空豆(広瀬すず)が、幼なじみの婚約者を追って上京した先で、音楽家を目指す青年・海野音(永瀬廉)と運命的で衝撃的な出逢いを果たすところから物語は始まる。夏木が演じるのは、そんな音と空豆が暮らすことになる下宿先の主・雪平響子だ。

 彼女は芸術家であり、資産家。潰れかけていた近所の銭湯を思いつきで買い取れる懐の余裕と、若者の夢を応援したいと血の繋がらない空豆や音の面倒を見るだけの心の余裕を両方持ち合わせている。響子を見ていると、多くの視聴者が同じく夏木が演じた“あの人”を思い出すのではないだろうか。そう、音を演じる永瀬廉も出演した連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)の“姫”こと新田サヤカだ。

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 サヤカはその設定に響子と共通する点が多く、同作の舞台の一つである宮城県登米市の資産家で、知人の孫である主人公・永浦百音(清原果耶)を自分の家に下宿させるという役どころ。ただ、自由な感性で生きているアーティスティックな響子と比べ、自身の所有する山林を百音も働く森林組合に託し、そこで働く人たちのリーダー的な存在だったサヤカはより地に足のついた人物だ。一方で、壮大な自然を愛し、共生するサヤカはまさに生ける伝説。森林の中に佇む彼女は神々しいまでの存在感を放っていた。

 ともすれば、畏怖の対象になってしまいそうなものを、絶妙に親しみやすさを交えた芝居でそうはさせないのが女優・夏木マリの力。サヤカは「余裕しゃくしゃくで生きているように見える立派な大人も、本当はジタバタもがきながら生きている」ということを百音に教えてくれる存在であり、時にはその心の揺れを惜しげなく見せてくれた。例えば、百音が近い未来に自分の元を離れていくことを察し、「いいじゃないの。また一人でも。こういう人生よ」と伐採が決まったヒバの木に語りかけるサヤカの姿が忘れられない。人生の大先輩である夏木が体現する愛すべき孤独に心が共鳴したのを覚えている。

 前クールの火曜ドラマ『君の花になる』(TBS系)にも出演し、男性アイドルグループ8LOOMが所属する芸能事務所の女社長・花巻由紀を演じた夏木。自立した女性という点では響子やサヤカとも共通するが、当初花巻は情が薄い人物として描かれていた。自分にも他人にも厳しく、見込みがないと判断したものは容赦無く切り捨てる経営者としての強さを夏木は全身から滲ませる。だが、そのしなやかな佇まいが状況に応じて自身の考えをアップデートできる彼女の柔軟さも同時に物語っていた。

 夏木マリという人物そのものに誰もが抱く、気高く美しい女性像が演じる役にも乗っかりながら、どれ一つとして同じにはならない。今回演じる響子はその一挙一動に少女心が宿っており、空豆や音にも何かを教えるというよりは限りなく対等な存在としてそこにいる。普段は気まぐれで銭湯の番台に座り(ちなみにこの銭湯は『おかえりモネ』でも撮影に使われた)、心が赴くままにキャンパスに向かう響子。決して多くの人が思う立派な大人ではないのだが、そのいい加減さが逆にあーでもないこーでもないと悩める若者たちの心を救うのではないだろうか。

 夏木自身が表現者であるため、響子が放つ言葉にも説得力がある。特に第2話における「ものを作るってのは人間が1番遠くまで行ける手段なんだよ」という響子の金言は軽やかな台詞回しにもかかわらず、とてつもない力強さがあった。この人から次は何を教わることができるのだろうと、ワクワクさせてくれる存在である夏木。その言葉と行動に魅せられたい。

(苫とり子)

 
   

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