当然、こうした新戦力が2月1日から始まる春季キャンプの大きな注目ポイントになることは間違いない。だが、ドラゴンズファンにとって、ある意味で彼ら以上に気になるのが根尾昂の先発挑戦ではないだろうか。
昨年5月に突然の投手転向で球界を驚かせた根尾。その後、リリーフ投手として25試合に登板した。シーズン成績を改めて振り返っておこう。
試合:25
投球回:29.0
防御率:3.41
K/9:6.83
BB/9:3.72
※K/9=奪三振率、BB/9=与四球率
野手から投手に転向し、ぶっつけ本番に近い形で実戦に登板したことを考慮すれば、及第点の成績と言っていいだろう。同時に、そうした文脈を外して「一人の投手」として見ると、決して飛びぬけた数字ではないことも確かだ。特に奪三振率6.83と与四球率3.72はどちらも大いに改善の余地がある。
「投手・根尾」の進化を占う上で、そして先発成功のカギになるのが「第3の球種の確立」だ。昨季の根尾はストレートが全体の約6割、スライダーが3割を占めた。時折、スプリットやカーブも織り交ぜてはいたものの、実質ストレートとスライダーの2球種で勝負していた。
これでは、先発としてはあまりにもピッチングが単調になってしまう。根尾自身、そのことを重々承知していたのだろう。このオフ、単身渡米してシアトル郊外にある最先端施設『ドライブライン・ベースボール』でトレーニングを敢行した。
『ドライブライン』では、ラプソードなどの最新機器を使って投球の回転量や回転軸などを測定しながら、各投手の個性に合わせた投球スタイルを提案する(これを「ピッチデザイン」と呼ぶ)。根尾の場合、具体的にはスプリットの改造に着手した。『ドライブライン』によると、これまでの根尾はツーシームの握りでスプリットを投げていたが、ストレートとの縦変化量の差がほとんどなかったため、十分な効果を得られていなかった。言い換えれば、思うように空振りを奪えていなかった。
そこで、スプリットの握りをワンシームに変更したところ、面白いほど落ちるようになった。4シームとの縦変化量差は今や、MLBブルワーズのクローザーでWBCアメリカ代表にも選ばれているデビン・ウィリアムズのチェンジアップに匹敵するレベルだという。ウィリアムズのチェンジアップと言えば、“エアベンダー”の異名を取り、MLBでも屈指のウィニングショットとして知られている。この“魔球”と肩を並べるほどになったというのだ。 実は、根尾のスライダーはすでに一級品に達している。昨季の空振り/スウィング率は40%を超え、これはNPBでもトップクラス。ここにスプリットが加われば、大きく幅が広がることは間違いない。
根尾は今年のキャンプを一軍の北谷ではなく二軍の読谷で迎える。投球そのもののレベルアップはもちろん、体力面でも先発にふさわしいスタミナを蓄えることも重要な目標になる。
ドラゴンズの先発ローテーションは、大野雄大、柳裕也、涌井のタイトルホルダー3人に加え、WBC日本代表にも選ばれた高橋宏斗、昨季奪三振数リーグ2位の小笠原慎之介と層が厚い。この中に割って入るのは容易なことではない。シーズン途中でリリーフに戻る可能性もあるだろう。 そうだとしても、スプリットの進化はやはりカギになる。空振り/スウィング率40%を超える球種が2つあれば、単なるリリーフではなくセットアップやクローザーとして絶対的な地位を築くことも夢物語ではなくなる。
そう考えると、生まれ変わったスプリットが「投手・根尾」のキャリアを左右すると言っても過言ではない。実際に打者が打席に立った中でもスプリットは威力を発揮するのか。紅白戦、オープン戦の登板が今から楽しみだ。
文●久保田市郎(SLUGGER編集長)