車いすバスケットボールのクラブチーム日本一を決める「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」。1月21日、東京体育館で行われた決勝は、パラ神奈川スポーツクラブ(関東)とNO EXCUSE(東京)のカードに。応援に駆け付けた観客はこれまでの天皇杯と違って有料チケットを購入して入場した。両チームも観客用のハリセンを用意し、ベンチ裏はパラ神奈川スポーツクラブの赤とNO EXCUSEのチームカラーであるオレンジにそれぞれ染まった。華やかな雰囲気の中、試合を制したのはパラ神奈川スポーツクラブ。男子日本代表が銀メダルを獲得した東京2020パラリンピックを経て、日本一有名なパラアスリートになった鳥海連志がMVPを獲得し、新時代が幕を開けた。

四半世紀ぶりの戴冠

2021年に自国開催された東京2020パラリンピックの後、ファンの熱をつなげようという動きが高まる中、昨年から再開予定だった天皇杯。新型コロナウイルス感染症の影響で、大会2日前に中止することを余儀なくされた。それだけに、3年半ぶりの今大会に期待が高まっていたのは言うまでもない。
2日間のトーナメントを戦ったのは、全国10ブロックの第1次予選、東西で分けられた第2次予選を勝ち抜いた6チームと2022年12月の高崎大会優勝チーム、そして2019年2月の前回大会優勝チーム。学校観戦の子どもたちでにぎわった初戦は、各チームともに硬さが見られたものの、出場8チームの選手たちは試合後、「楽しかった」と口をそろえた。
「なかなか開催されなかった天皇杯がようやく開催され、一戦一戦を仲間と戦い抜けたことは宝物でした」
こうヒーローインタビューでスピーチした、鳥海の言葉にも実感がこもっていた。
鳥海がキャプテンを務めるパラ神奈川スポーツクラブは、前回大会で4位だった。1990年代に3度日本一に輝いた実績こそあるが、チーム内のほとんどの選手にとって初めての決勝だった。頂上決戦ならではの雰囲気にのまれると思いきや、「プレッシャーで初戦から緊張していて決勝も変わらない」(堀井幹也ヘッドコーチ)、「やってきたことをやるだけ」(鳥海)、「準決勝とか、決勝だとか意識しないように戦っていた」(古澤拓也)というそれぞれの言葉からもわかるように、チームが同じ優勝という目標に向かって、同じように目の前の試合に集中して勝ち上がった。
プレスディフェンスで東日本王者を圧倒

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古豪のワールドBBCに74-47、勢いのある埼玉ライオンズに61-49。余裕を持って勝ち上がったように見えても、落ち着ける時間帯は少なかったようだ。決勝では、序盤はオフェンスでリズムが掴めず、第1クォーター終了時で4点のビハインド。第2クォーターでディフェンスから流れを呼び込んで試合をひっくり返し、第2次予選大会で敗れたNO EXCUSEに51-44で勝利した。
鳥海は、ディフェンスへのこだわりを勝因に挙げる。
「ディフェンスでプレスに行く場面、ハーフコートはしっかり守るというシステムの切り替えと、相手が(シュートを)打ちたい場面で打たせない点で、いいディフェンスができたと思う」
そして、オフェンスでは「誰か一人がたくさん点を取るのではない」意識を徹底させた。チームは存在感のあるハイポインターがいるわけではなく、障がいクラス2.5の鳥海、丸山弘毅、3.0の古澤がアウトサイドから打ち、相手に的を絞らせない。前半決めることができなかった丸山も前を向いて打ち続けると、後半はしっかり決めてチームの優勝に貢献した。

東京パラリンピック、そして過去2回のU23世界選手権で活躍した若手スターたちを擁するパラ神奈川スポーツクラブが優勝し、これまで日本代表をけん引してきた藤本怜央らが獲ってきたMVPを鳥海が手にしたことは、時代の移り変わりを感じさせた。
「これから連勝するチームを作り上げる」と鳥海が話すパラ神奈川スポーツクラブも、変化してきたという。
「プロを目指すチームになり、モチベーションの高い状態が続いていた」と鳥海。
