MONE KAMISHIRAISHI 2023 at BUDOKAN
2023年1月25日(水)日本武道館
上白石萌音が1月25日、初の日本武道館公演「MONE KAMISHIRAISHI 2023 at BUDOKAN」を開催した。歌手デビュー7年目で実現した初の武道館ライブは、「デビューミニアルバムから、おおよそ順番通り」のセットリストで構成。これまで発表してきたオリジナル曲、カバー曲に加え、自身が出演した映画、舞台の楽曲も披露され、俳優/歌手としてのキャリアを追体験できる内容となった。
ライブはバックヤードからステージに向かう上白石の映像からスタート。ノースリーブのワンピースを着た彼女がステージに登場すると、会場を埋め尽くした観客から大きな拍手が起こる。客席まで照明がつけられたなかで披露されたのは、「なんでもないや(movie ver.)」(RADWIMPS)のカバー(カバーミニアルバム『chouchou』/2016年)。主人公のひとりとして出演したアニメーション映画「君の名は。」の主題歌だ。アカペラで歌いはじめ、ピアノとストリングスカルテットが加わる構成によって、豊かな詩情をたたえたボーカルが響き渡った。
上白石はまず、記録的な大寒波に見舞われたこの日に来場をした観客を気遣う。そして「いっぱいいっぱい準備してきました。とにかく今日ここで会えて、歌えることが幸せです」と笑顔で語りかけた。

「手を叩いて温まりませんか?」とハンドクラップを促したのは、上白石が作詞、藤原さくらが作曲した「きみに」(アルバム『and…』/2017年)。さらにアルバム『note』(2020年)から、切なくも愛らしい恋愛感情を描いた「ハッピーエンド」(作詞・作曲/内澤崇仁)前向きな意志を込めたロックチューン「白い泥」(作詞・作曲/橋本絵莉子)、シックかつオーガニックな旋律が印象的な「Little Birds」(作詞:micca/作曲:大橋好規)、そして、アリーナに設置されたセンターステージから「きっと見上げて/次の運命を/その手で/手繰るだろう」という歌詞を手渡すように歌った「一縷」(作詞・作曲/野田洋次郎)を披露。楽曲のテイスト、歌詞のストーリーを際立たせるボーカルに強く引き寄せられた。武道館の真ん中から「やっほー!」と手を振る姿も印象的。観客をホッとさせる親しみやすさもまた、彼女のステージの魅力だろう。
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ライブ中盤では、70~90年代の邦楽カバーアルバム『あの歌』(2021年)の収録曲によるメドレーも。「世界中の誰よりきっと」「木綿のハンカチーフ」「勝手にしやがれ」など7曲を15分に渡って歌い上げた。根底にあるのは、原曲に対する深い理解とアーティストへの敬意。彼女自身の音楽的ルーツも感じられる貴重なメドレーだったと思う。(個人的には「みずいろの雨」の大人っぽい歌声にグッときました)
モノトーンの衣装に着替えた後は、「舞台の上で、役として歌うことが私の人生のなかですごく大切なんです」と、これまでに出演した演劇作品の楽曲を披露した。まずは音楽劇「組曲虐殺」から、「豊多摩の低い月」。劇中に登場する3人の女性を演じるように歌うシーンからは、俳優としての奥深い魅力が伝わってきた。

「13歳でお芝居をはじめて、たくさんの作品やたくさんのお役や歌に巡りあって来たんですが、そのなかでどうしても語らずにはいられない方がいらっしゃいます」と紹介されたのは、井上芳雄。現在、福岡の博多座でミュージカル『エリザベート』に出演中の井上からビデオメッセージが映し出されると、「やっぱり武道館に行きたいな」(井上)という言葉とともに移動し、なんと武道館のステージに花束を持って登場! 予想外のサプライズに客席からも大きな拍手が送られた。
「読売演劇大賞(女優賞ノミネート)おめでとうございます! ちょっとはテングになったかなと思ったら、さらに腰が低くて」「芳雄さんを見習ってます(笑)」という気の置けないおしゃべりのあとは、昨年、両者が出演したミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~』から「幸せの秘密」を披露。さらに二人の初共演となったミュージカル『ナイツ・テイルー騎士物語ー』から「牢番の娘の嘆き」をデュエット。劇中のセリフを交えながら、この日だけのスペシャルなステージが繰り広げられた。
ビッグバンド・ジャズの雰囲気を感じさせる「ジェリーフィッシュ」(作詞:Makoto ATOZI/作曲:金子隆博)からは最新アルバム『name』(2022年)の楽曲で構成。途中、「どうしても武道館で歌いたい曲があるので、歌います! みなさん、立ちませんか?」と呼びかけ、「ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス」(スターダストレビュー)をカバー。(この曲を選んだ理由は、“武道館→たまねぎ→オニオンスライス”だから、だそうです)武道館全体を心地いい一体感で包み込んだ。
さらに彼女自身が作詞し、自らの思いを日記のように綴った「スピン」(作曲/諸見里 修)、「まさかこうして/歌う人に君がなるだなんて/名前って不思議ね」と名前をテーマにした歌詞が広がった「君の名前」(作詞・作曲/佐藤良成)も。ひとつひとつのフレーズを丁寧に紡ぎだし、大らかな解放感、凛とした力強さも感じさせるボーカルは、ライブ終盤を迎え、さらに豊かな感動を生み出していた。
「みなさんの目を見て、みなさんの近くで歌えて、本当に幸せでした。デビュー当時のことをいろいろ思い出しながら歌っていました。たくさんの人との出会いがあって、ミュージシャンのみなさんが音を奏でてくれて、こうやって歌えている喜びをかみしめました。聴いてくださるみなさんに、本当に感謝しています」という言葉に導かれたのは、森山直太朗が手がけた「懐かしい未来」。この先の希望を感じさせる歌が響き、本編は終了した。

アンコールも見どころたっぷり。まずはバンドメンバーが「Happy Birthday To You」を演奏。声出し禁止の観客に代わって上白石が歌い、会場全体に温かい拍手が響き渡った。アンコール1曲目は、「舞妓はレディ」。彼女が初めて主演をつとめた映画「舞妓はレディ」の主題歌を軽やかに歌い(ステージでの歌唱は10年ぶり!)、最後は「おおきに」と挨拶。さらに「夢を持っているあなたに。かつて夢を持っていたあなたに歌います」と紹介された「The Voice of Hope」(作詞:岩里祐穂、作曲:河野伸)、そして最後は「夕陽に溶け出して」(作詞・作曲/小林武史)。ノスタルジックな美しい旋律、「明日がもしも 晴れるなら/空を見上げて歩きたい」というフレーズが広がり、ライブはエンディングを迎えた。
2023年1月30日