「実は、フジテレビ在籍時代から石垣島のキャンプ取材には行っていたんです。当時は石垣島まで行くアナウンサーはあまりいなかったですけど、僕はマリーンズファンなので(笑)。でも、キャンプ中継の実況は19年、藤原恭太がドラフト1位で入ってきた時からですね」
生粋のロッテファンである吉田さんが、キャンプ中継の実況を始めた最初の年。いきなり驚きがあったという。
「かつて見たことないくらいの報道陣がいたんです。ロッテのキャンプと言ったら、申し訳ないんですけど結構閑散としていて、報道陣も少なかったんですけど。あれには驚きました。まず藤原くんでドカーンときて、その翌年には佐々木朗希が入団。もう大変なことになってましたね」
またコロナの影響がなかった”令和の怪物”佐々木朗1年目のキャンプは、彼を追う報道陣でごった返していた。佐々木が移動すれば、カメラも記者もファンも大移動。フィーバーを十分実感できる光景だった。
「佐々木の一挙手一投足、ふとした表情から全て、何から何まで見どころでしょうね。僕も見入っちゃいましたからね、彼がその空間にいるだけで」
3月にはWBCにも出場する佐々木朗は今年も当然要チェックだが、投手陣で注目すべきは彼だけではない。吉田さんが今年のキャンプで期待している投手とは誰なのか。
「全員に頑張ってほしいんですけど、あえて挙げるならば、まずは小島(和哉)投手ですね」
5年目のシーズンを迎える26歳のサウスポーは、昨季チーム最多の24試合に先発。2年連続の規定投球回を達成し、防御率はキャリアベストの3.14だった。しかしながら、打線の援護に恵まれず、3勝11敗と大きく負け越した。
「新たにフォークをマスターしようとしているということなので、そうなったら相当やるんじゃないかと期待しています。キャンプ中、シートバッティングなどの実戦練習でフォークを試した時の打者の反応を見てみたいですね」
そしてもう一人名前を挙げたのが、7年目の種市篤暉だ。吉田さんがキャンプ実況を始めた19年に8勝を挙げてブレイクしたが、翌年に右ヒジを故障してトミー・ジョン手術に踏み切った。実戦復帰を果たしたのは昨年8月のことである。
「彼は今年のロッテの救世主的な存在になるような気がしているんですよね。(昨年11月の)フェニックス・リーグでは152キロを出して、本人も真っすぐの感触が良かったとコメントしていました。非常に期待しています」
種市は1月の自主トレで、3年ぶりに開催された鴻江スポーツアカデミーの合同自主トレに参加。自身のメカニクスを改めて確認し、キャンプインに備えている。ローテーション入りに向けてライバルは多いが、キャンプでどんなアピールを見せるのか注目だ。
他にも、種市と全く同じ生年月日で、20年ドラフト1位の意地を見せたい鈴木昭汰、佐々木朗とは対照的に遅いボールで勝負する佐藤奨真など、個性的な若手投手の名も挙げた吉田さん。野手陣はどう見ているのだろうか。
「課題は得点力の低さですよね。21年は松中信彦さんがキャンプから臨時コーチで来て、得点がリーグトップだったんですよ。今年は打撃コーチに村田修一さんが入りますが、僕は巧さも持ち合わせたホームランバッターというイメージを持っています。そんなスラッガーが打撃コーチで入ってきてくれたので、若い強打者タイプの選手たちの成長を後押ししてくれるんじゃないかと期待しています」
昨年、チーム最多の16本塁打を放った山口航輝や、終盤に覚醒の兆しを見せた安田尚憲など、近い将来のロッテを背負って立つ選手たちを村田コーチがどう導いていくのか。そんな中でも、吉田さんが特に期待しているのが右の和製大砲・山口の本格覚醒だ。
「僕は実況席から何度も目撃しているんですが、とんでもない打球を打つんですよ。『嘘だろ!?』って言葉が思わず出てしまいそうになるくらい、打球音が他の選手と違うんですよ。シーズン中の公式戦だと、お客さんが入る時間にはバッティング練習が終わってしまっていることも多いので、キャンプで実際に聞いてほしいですね」
千葉マリンスタジアム(現ZOZOマリンスタジアム)に本拠地を移転した1992年以降、日本人選手では初芝清が95年と98年に記録した25本塁打がシーズン最多記録。本塁打王3回の山川穂高(西武)と自主トレを敢行した山口がどんな姿をキャンプで見せてくれるのか。ひと味違う打球音とともに、ぜひチェックしたいところだ。
その他にもベテランから若手まで、キャンプで注目するさまざまな選手の名前が挙がり、インタビューは大幅に予定時間を超過。それでも吉田さんは最後に、どうしても注目してほしい選手として田村龍弘の名前をあげた。
「マリーンズファンはキャッチャー田村の復活を信じています。彼は内に秘めながらもすごく熱い気持ちを持っていると思うんです。そして、投手陣のことを一番よく知っているキャッチャーでもある。去年はあまり出場機会がありませんでしたが、彼が一軍でマスクをかぶることで、良い方向に変わっていくピッチャーもいると思います。松川(虎生)や佐藤都志也にももちろん期待していますが、田村の存在も強調しておきたいですね」
投手陣からも信頼の厚いと吉井監督も一目を置く田村が、このキャンプでどういう姿を見せるのかも見どころに一つになりそうだ。
今回のキャンプでは、一軍と二軍を振り分けない異例の形をとることがすでに発表されている。それは選手たちにとっては、チャンスが平等に転がっていると捉えることもできるはず。「1日中バットを振る選手もいれば、一日中守備をする人もいる」と会見で吉井監督が話したように、どんなメニューになるのか現時点では想像がつかない。
監督だけでなく首脳陣も大幅に変わった今年のロッテ。ひょっとすると、思いもよらない選手が台頭する瞬間を石垣島で見ることができるかもしれない。
取材・文●岩国誠
岩国誠(いわくにまこと):1973年3月26日生まれ。32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBや独立リーグの取材を行っている。