
『どうする家康』(NHK総合)第4回「清須でどうする!」。泣く泣く織田信長(岡田准一)との同盟を決断した松平元康(松本潤)は、信長の待つ尾張・清須城へ向かった。柴田勝家(吉原光夫)に促され、元康は信長と対面する。石川数正(松重豊)らから、先に頭を下げても名乗ってもいけないと言われていた元康だが、信長の威圧感に圧倒され、先に頭を下げてしまった。
参考:北川景子、“兄”岡田准一の凄さを明かす 「“この人には逆らえない”という圧倒的なオーラ」
第4回の信長もまた凄みがある。元康が信長と相撲をとる場面では、アクションを極めた岡田が圧巻の動きを見せた。元康が嫌々ながらも本気で組み合うと、信長はそれに応えるように元康を組み伏せるのだが、あまりにもすばやい身のこなしに見入ってしまう。「それでよい」と元康を見下ろす信長の立ち姿は、圧倒的な強さとカリスマ性が漂っていた。
元康と盟約を結ぶ場面では、元康が「今川への処し方について」と声をあげると、不敵な笑みを浮かべて元康へと詰め寄る。信長は元康の頬をまるで兎を撫でるように優しく触れたあと、何度もその手で頬を叩く。叩く力は徐々に強くなり、最後には元康の頬をぶつ。怯える目で信長を見上げる元康に、信長は「情で自らを滅ぼすか?」と問い詰めた。元康に触れる手やガッと詰め寄る姿など、岡田の立ち居振る舞いを見ていると、信長にとって元康はいつまで経っても竹千代(川口和空)のまま、白兎のままなのだと分かる。
そんな信長の妹・お市(北川景子)もまた、戦乱の世を生きる気高い人物だ。相撲や水練に交ざりたがって兄を困らせていた男勝りの少女は、美しく成長していた。元康を高台へ案内するお市の無邪気な笑顔はかわいらしいが、さすがは信長の妹。「乱世とはまことに愉快な世であることよ」「力さえあれば、何でも手に入る!」と豪語する。続く「ただし、男であればな……」という言葉はなんとも切なかったが、お市を演じている北川の純真な笑顔と凛とした佇まいが、お市の人物像を明確に表している。
広告の後にも続きます
お市は、幼い頃、川で溺れたところを救われたときから元康に恋い焦がれていた。このことは物語終盤になって明言されたが、劇中にお市が元康を慕う描写がちりばめられていた。特に印象的だったのが、元康と2人で言葉を交わす場面と縁談を断る場面だ。前者では、元康の力になりたいという気持ちが、お市のまっすぐな眼差しに表れていた。お市は誠実な目で元康を見つめると「この市が、元康殿をお助けし、強い強い大将にいたしまする。兄をもしのぐほどの」と言った。自信に溢れた顔つきと声色から、元康を信じる心が伝わってくる。元康は「それはどうでござろう……」と覇気のない返事をしたときには、お市は「いたしまする」と快活な笑顔を浮かべて側へ近寄る。親しげな面持ちで距離を縮める姿から元康を慕う気持ちが伝わってきた。
お市は元康との縁談に前向きだったが、元康のことを恋い慕うからこそ自ら身を引く。元康の言葉を遮って縁談を断るお市の姿は潔い。けれど、その目には涙が浮かんでいた。お市は悲しみを抑えながら、瀬名(有村架純)と子を思う元康に言葉を贈る。
「申したはずです。この世は力だと」
「欲しいものは、力で奪い取るのです」
結局のところ、信長もお市も元康を気にかけている。兄妹の会話は、彼ら特有の緊迫感があるがコミカルにも感じられる。兄は「どんな気分じゃ? 初めて男にそっぽを向かれた気持ちは」「望むのであれば、やつを殺してやってもよいぞ」と物騒だが、妹は「やっかいごとは白兎殿に押しつけなさるがよろしいかと」と返す。しかしお市の返答は勝ち気なだけではない。
「そして、大切になさいませ」
「兄上が心から信を置けるお方は、あの方お一人かもしれませぬから」
この台詞が心に響くのは、初登場にして強烈な印象を残した木下藤吉郎(ムロツヨシ)の存在があるからかもしれない。藤吉郎は「猿!」と呼ばれる世話係の下男だ。明るい笑顔を振りまきながら、早口でまくしたてる。元康や元康の家臣たちにも親しげな雰囲気で接するが、時折、ふっと見せる表情に底知れぬものが感じられる。