「ライアーゲーム」シリーズなどを手掛けた岡田道尚のオリジナル脚本で描かれる『#マンホール』の主人公は、営業成績ナンバーワンのデキる男・川村俊介。社長令嬢との結婚式前夜、酩酊して不覚にもマンホールの穴に落ちてしまう。穴の底で目を覚ました川村は、思うように身動きが取れず、警察に助けを求めるもまともに取り合ってもらえない。唯一連絡が取れた元カノに助けを求めるのだが、やがて何者かにはめられたのではないかと考えるようになる。
■傑作揃いのシチュエーションスリラー。熊切監督のイチ押しは?
「CUBE」シリーズや「ソウ」シリーズ、『[リミット]』(10)や『search/サーチ』(17)など、原作の人気やバジェットの大きさなどに頼ることなく独創的で斬新なアイデアが、作品のおもしろさや興行的な成功にも直結するジャンルとして世界中の映画ファンを魅了してきたシチュエーション・スリラー。なかでも熊切監督がおすすめの一本として挙げるのは、デンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』(18)だ。
『THE GUILTY/ギルティ』の主人公は緊急通報司令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)。ある事件をきっかけに警察官としての第一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど些細な事件に応対する日々を送っていた。そんなある日、彼のもとに一本の通報が。それはいままさに誘拐されているという女性からの通報だった。車の発車音や女性の怯える声、そして犯人の息遣い。かすかに聞こえる音だけを手掛かりに、“見えない”事件の解決に挑んでいく。
音だけでサスペンスを構築するというアイデアが話題を博し、サンダンス国際映画祭を皮切りに世界各国の映画祭で観客賞を相次いで獲得。第91回アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表として最終選考のショートリストにも選出され、2021年には「イコライザー」シリーズのアントワン・フークワ監督、ジェイク・ギレンホール主演でハリウッドリメイク版も製作されたほど。
■『ランボー』に『穴』…他ジャンルの作品からのエッセンスも
また熊切監督は、本作を手掛ける上で参考にした作品を挙げる。「大好きな作品です。“顔の見えない群衆の怖さ”みたいなところで影響を受けています」と語ったのは、オリヴァー・ストーン監督の『トーク・レディオ』(89)。そして「川村の足の怪我の応急処置のシーンで参考にしています」と明かすのは、シルベスター・スタローンの代表作の一つである『ランボー』(82)だ。
さらに主人公がマンホールからの脱出を目指すという点が共通するのだろう、“脱走もの”映画の名作からも2本。ドイツ占領下のフランスでゲシュタポに捕らえられたフランスの軍人の脱走を描いたロベール・ブレッソン監督の『抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より』(56)。もう一本は実在の脱獄事件をベースにしたジャック・ベッケル監督の『穴』(60)。この2本を参考にした脱出劇となれば、この上ない緊張感が味わえること請け合いだ。
■ブラックユーモアは巨匠オリヴァー・ストーンの映画から!
最後に紹介するのは、熊切監督が主演の中島にクランクイン前に鑑賞することを勧めたという作品。「全体の悪ノリ感といいますか、ブラックユーモアの感じを参考にしました」と挙げたのは、オリヴァー・ストーン監督の『Uターン』(97)だ。
借金を返そうとラスベガスへ向かう途中、愛車が故障して寂れた街に足止めを食ってしまう主人公のボビー(ショーン・ペン)。強盗に遭って金を失った彼は、不動産業者のジェイク(ニック・ノルティ)から妻のグレース(ジェニファー・ロペス)を殺す仕事を請け負うのだが、妖艶なグレースから逆に夫殺しの計画を持ちかけられてしまう。
こうした様々な過去の傑作のエッセンスを投入して作りあげた『#マンホール』。世界を相手に独創的なアイデアで勝負できる、日本発のジャンル映画としての挑戦心にあふれた本作は、現地時間2月16日から開幕する第73回ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門に正式出品されている。海外でどのような評価を受けるのか注目しながら、まずは劇場に足を運び、その衝撃の結末を目撃してほしい!
文/久保田 和馬