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高橋一生の“前に進めない主人公”はなぜ魅力的なのか 『6秒間の軌跡』が描く愛おしい時間

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『6秒間の軌跡』©テレビ朝日

 打ち上げに使われる花火玉には、“星”という花火の色や光を出すための火薬と、“割薬”という玉皮をこわして星を飛び散らすための火薬が詰められている。当然、1日で完成するわけもなく、特に時間と手間を要するのが“星掛け”と呼ばれる作業だ。

参考:『6秒間の軌跡』本田翼の真価が最大限に生かされたひかり 入出力の演技が光る高橋一生も

 芯に水分を含んだ火薬をまぶし、干して、乾かしてを繰り返し、数カ月かけて星を徐々に大きくしていく。そんな気の遠くなる作業をひかり(本田翼)が星太郎(高橋一生)から教わった『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)第3話。

「私、花火にもっと興味持ちました。たった数秒間の煌めきのために2カ月かける世界ですよ。もっと知りたいです」

 目的を達成するまでにもどかしいくらいの時間はかかるけれど、その時間こそが興味深くて愛おしい。本作もまさにそんな物語だ。

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 自分の花火に背中を押されたというひかりの言葉をきっかけに、本格的に個人向けの花火に向き合うことを決意した星太郎。とはいえ、なかなかオーダーは来ないものだが、どこか星太郎はホッとしているような気がする。ひかりが「花火を作る」と言い出しても、喜ぶ航(橋爪功)に対し、星太郎は乗り気じゃない。こんなに前に進まない、いや進めない主人公も珍しいのではないだろうか。

 ただ、星太郎には気になっていることがあった。それは航が幽霊となり、自分の家にとどまる理由。そのうち星太郎は航が何か心配事があり、成仏できないのではないかと推測するように。実は星太郎には4年間付き合った“由紀子”という恋人がいたが、結婚には至らなかった。花火の打ち上げに関しても、同業者がパソコンによる遠隔操作での打ち上げに切り替える中、星太郎は長く手付けにこだわっていたという。

 今の状態から変わらないでいい理由ばかりを考えてきた自分に対し、思いつきで行動できる13歳年下のひかりを「羨ましい」と羨む星太郎はたしかに、情けないといえば情けない。なのにどうしてこんなにも、ずっと見ていたくなる魅力があるのか。

 脚本家の橋部敦子が描くのはいつも繊細な心の持ち主だ。星太郎もまた、手間暇かけて作った花火がなかなか上げられない今の状況を、「かわいそうなのは花火」と“花火の気持ち”に寄り添い、嘆く人とは違う感性を持っている。他にも、航がいつも読んでいた新聞を捨てられなかったり、航が死んでから一度も彼の部屋の窓を開けていなかったり、橋部は何気ないエピソードを通して心優しい星太郎の人柄を伝えてくれる。

 また憎めないのは、高橋が演じているのも大きいだろう。一見物腰が柔らかく、落ち着いた大人の男性だが、言葉の端々に少年心が滲み出ている。そんな高橋だからこそ、大人と子どもを行き来する可愛い中年像を体現できるし、年下の本田とも、年上の橋爪とも抜群のコンビネーションを見せることができるのだ。

 特に橋爪とは、どこまでが台詞で、どこからがアドリブなのか分からないやりとりを披露しており、思わず素で吹き出す場面も度々見受けられる。第3話からはドラマの本編終了後に、橋爪が視聴者からのお悩みに答える「航さんに聞いてみよう」のミニコーナーがスタート。今回は緊張への対処法を聞かれ、橋爪が「私は掌に高橋一生と書いて(呑み込み)、ぺっと吐きます」と回答した。その後ろで高橋が必死で笑いを堪えている姿が映っていたが、本編もそんなふうに星太郎がみんなから容赦なくいじられ、より魅力を増していく。周りの人たちに尻を叩かれて少しずつ前に進む、40代にして成長過程にある星太郎をいつまでも見守っていたい。(苫とり子)

 
   

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