
『どうする家康』(NHK総合)第4回「清須でどうする!」でいよいよムロツヨシ演じる木下藤吉郎(豊臣秀吉)が登場する。主人公の松平元康(松本潤)が致し方なく、織田信長(岡田准一)の待つ清洲城に行くことで「戦国の三英傑」が揃うことになる。
参考:溝端淳平が『どうする家康』の展開を左右する? 演技巧者としての真価が明らかに
木下藤吉郎は「戦国乱世を最も楽しんだ男」として、元康(のちの家康)にとっては最大のライバルであり、一番苦手なタイプとして描かれる。尾張の貧しい農家に家に生まれ、行商生活を経て織田信長に仕えるようになった藤吉郎。人を惹きつける話術と頭の回転の速さ、ずば抜けた行動力でひたすら出世し、ついには天下統一までも果たすことになる。
この藤吉郎役を演じるにあたり、ムロツヨシは「これまで数々の大先輩方が演じた秀吉を見てきましたからね。萎縮したり、まねになったりしないようにと、過去の作品を改めて見返すようなことはあえてしていません。古沢良太さんの脚本とスタッフの皆さんの力をお借りして、自分なりの秀吉をお見せしたいと思っています」と『NHKドラマガイド どうする家康 前編』(NHK出版)で語っている。
大河ドラマで戦国時代を舞台にした作品は多く、『どうする家康』は第62作目となるが、本作の主役・徳川家康は24作品に登場している。同じ時代を生き、日本史上最大の出世を成し遂げた豊臣秀吉もまた人気のあるキャラクターの一人であることは間違いない。
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だからこそ、「タヌキおやじ」のイメージが強い徳川家康を「戦が嫌いな、か弱きプリンス」と全く新しい角度から捉えているように、ムロツヨシにしか演じることができない魅力を持った豊臣秀吉像を新たに作ってくれることには期待しかない。
NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)で豊臣秀吉を演じたのは、小日向文世だった。脚本家の三谷幸喜から事前に「今までにない秀吉を」という言葉もあり、気さくな雰囲気で無邪気な笑顔を見せたかと思えば、その場の空気の先を読んで即座に合理的な決断を下す。人当たりは最高に良くてオープンマインドで感情を表に出しつつ、政治的なことになると冷静に自分が優位になる答えを確実に選ぶ。そのギャップ、二面性の見せ方が絶妙で、こんなタイプの武将がいたら確かに天下人にさえなれるだろうと納得。説得力のある巧みな演技で新鮮な秀吉像を見せてくれた。
また、記憶に新しいところでは、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2020年)で佐々木蔵之介が演じた豊臣秀吉も印象的だった。目の前の相手に見下されることには全く動じないが、その負のパワーさえも自分の力に変えていくような凄み。底知れぬ欲を隠し持つような狡猾な男でありつつ、ひょうきんな態度で周囲の人を魅了する。そんな複雑で難しい役どころを飄々と演じる姿が目に焼きついている。
ちなみに、豊臣秀吉が大河ドラマに初めて登場した作品は3作目『太閤記』(1965年)で、大河ドラマで豊臣秀吉役を2回演じた俳優は2人いる。1人は、この『太閤記』で豊臣秀吉を演じ、『黄金の日日』(1978年)でも秀吉役だった緒形拳。緒形拳が豊臣秀吉を演じた2作品には、高橋幸治が同様に2作品とも織田信長を演じている。
そして、2人目が竹中直人。タイトルもそのままズバリ『秀吉』(1996年)で、明るくバイタリティに富む秀吉パワーに圧倒されるだけでなく、「心配ご無用!」の決めゼリフも話題になった。次に秀吉を演じたのは『軍師官兵衛』(2014年)で、晩年の秀吉の心の深い闇にもスポットが当てられた。『秀吉』では主人公としてのサクセスストーリーの部分が中心に描かれたが、『軍師官兵衛』の秀吉は黒田官兵衛(岡田准一)の目線から描かれていることもあり、跡継ぎの秀頼が生まれてからの暴走、強引な手腕を冷静に描写する場面も目立っていた。
戦国の世で波乱万丈な人生を生き抜いた人物だからこそ手強い敵もいるし、見方によってさまざまな解釈もできる。1987年に放送された大河ドラマ『独眼竜政宗』では、勝新太郎が威圧感たっぷりに豊臣秀吉を演じている。主人公の伊達政宗(渡辺謙)も相当プレッシャーを感じたようではあるが、勝新太郎のような目力が強く、堂々とした風格ある秀吉はかなり斬新な発想だ。ドラマの数だけ新しい秀吉と出会えるというのも、大河ドラマを観る醍醐味と言っていいかもしれない。