
不動産業者がせっかく優良な不動産物件を扱えても、その物件にまつわる複雑な法律トラブルがあると、物件が適正価格で売れず、依頼者の希望に添えないことがあります。そこで、せっかくのビジネスチャンスを失わないため有効なのが、法律の専門家である弁護士との「協業」です。本連載では、弁護士として不動産関係の数々の法律問題を解決してきた実績をもつ鈴木洋平氏が、不動産業者と弁護士の協業について事例を交え解説します。
法人後見制度が不動産業者のビジネスチャンスを広げる
不動産業者と弁護士が協業することにおいて、私が知る限り両者にとってメリットばかりで、デメリットはほとんどありません。しかも今後は社会がより両者の協業を求めるようになります。その大きな鍵は高齢化と法人後見です。
日本は世界でもトップクラスの超高齢社会(全人口の中で65歳以上の割合が21%を超えた社会)です。総務省統計局のデータによると、2021年9月15日の総人口に占める高齢者の割合は29.1%で過去最高となりました。この割合は今後も増加し続け、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2040年には35.3%となる見込みです。
そして第一生命経済研究所の推定によると、日本人の家計金融資産残高約2000兆円のうち、世帯主60歳以上の保有分は約7割を占めています。また、総務省の「全国家計構造調査」(2019年)を確認すると、80代の保有する資産の約65%は不動産となっています。
高齢者がどんどん増えていく。その高齢者が保有する資産の大半は不動産である。この2つから、今後成年後見制度を利用して不動産を売却するケースが増加していくことが見えてきます。それは不動産業者が活躍する場が増えることを意味します。
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ただし問題もあります。それは現在主流の成年後見人では、近々に行き詰まってしまう可能性が高いということです。
同制度は一度利用を開始すると、原則として被後見人が亡くなるまで終了させることはできません。したがって、成年後見人としては、次々と受任数が増えていくことになり、これ以上は受任できないという事態になることは容易に想像できます。実際に私はそのような事態に陥っている成年後見人を多数知っています。
また、成年後見人自身も年齢を重ねていきますから、いずれ余命が長い人の受任を断らざるを得なくなります。
ある年配の弁護士は「自分は弁護士業務をあと5年くらいしかやらないつもりなので、いつ終わるか分からない成年後見人を受けることはできない」と言っていました。これは、せっかく培った成年後見人としての知識や経験を無駄にしてしまうことにもつながります。さらに少子高齢化が加速するなか、成年後見人を受任したいという若手のキャパシティーが増加する被後見人よりも多くなることはあり得ず、個人で成年後見人を担当していくのはもはや限界が来ているといえます。
「法人後見」という効果的な解決策
私はこの問題を解決する手段として、「法人後見」という手段が最も効果的であると考えています。法人後見とは、成年後見人(保佐人や補助人も含む。以下成年後見人等とします)に、社会福祉法人のほか一般社団法人、特定非営利活動法人つまりNPOなどの法人が着任することです。
最高裁判所事務総局家庭局が毎年出している「成年後見関係事件の概況」によれば、成年後見制度が開始された2000年当初は、親族が成年後見人等に選任されたケースが90%以上を占めていました。しかしその親族が自身のために被後見人の財産を利用してしまうことがたびたび問題視され、2021年度には19.8%まで減少しています。