
母子家庭で育った小学五年生の咲希は、夕日が怖い。夕方になると六歳の時に失踪した父を思い出すからだ。絵画教室の澤田先生は、そんな彼女に胸の内にあるものを描いてみるよう勧める。一方、クラスの人気者・圭太は無口だが美人の咲希のことが気になって仕方がない。夏祭りをきっかけにカップルになった二人。やがて高校生になり、事件は起こる――※本記事は、あらき恵実氏の小説『終わりの象徴』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
少女に憑りつくもの
「真島はさ、どうしていつも一人ぼっちでいるの?俺が話しかけてもいつもそっけなくてさ……さっき、真島が笑ってくれた時にこう思ったんだ。あんなふうにいつも笑っていてくれたらいいのにって。」
圭太を見つめる咲希が、
「どうして?」
と、言った。その声は、驚きを含んでいた。
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「どうして伊藤くんは、私にそんな話をするの?わざわざ、夜にこんな場所に来てまで」
私のこと、そんなふうに気にかける人、クラスに今までいなかったのに、と川の方に顔を向け、独り言みたいに小声でポツリと言う。
「それは……」
圭太は、言葉に詰まった。自分の内側にある、まだ名前をつけられていない咲希に対する気持ちを見つめた。
二人の間に沈黙が落ちた。辺りは静かだった。川原に生える草の中に住む虫たちがリーリーとか、ギリギリとか鳴いているのが聞こえた。圭太は、自分の心臓の鼓動が聞こえそうな気がしていた。
やがて、咲希は立ちあがると、