
人間にとって、きちんとした睡眠をとることはとても大切なことだ。個人差はあるが、一般的には一晩に7~9時間は眠ることが推奨されている。
ところが中には6時間未満でも十分に元気だという人もいる。こうした人たちのことを「ショートスリーパー」といい、モーツァルトやエジソンのような歴史上の人物のほか、日本でも明石家さんまさんや畑正憲さん(ムツゴロウ)などがそうだと言われている。
だが、本当にショートスリーパーは実在するのだろうか? 本当は体や脳にかなり無理をさせているのではないだろうか?
この疑問に対し、アイルランド、メイヌース大学の睡眠の専門家はショートスリーパーは「本当にいる」と答えている。
それは都市伝説や無理をしているわけではなく、遺伝的な体質なのだそうだ。
「ショートスリーパー」は実在する。それは遺伝的な体質
行動神経科学者のアンドリュー・クーガン氏はこう説明する。睡眠時間が短くても平気な「ショートスリーパー症候群」は、夜に短時間しか眠らないのに、日中の眠気や、認知障害・気分の低下といった悪影響がないことを言いますつまりショートスリーパーは、決して無理をしているわけではないのだ。
睡眠時間は短くても、その人の生理機能には十分なのです
睡眠時間が少なければ、その分ほかのことができるので、ショートスリーパーに憧れる人もいるだろう。
ただ残念なことに、努力でなれるものではなさそうだ。というのも、ショートスリーパーは遺伝子によって決められているからだ。

photo by Unsplash
●
実際それを調べた研究もある。例えば、『Sleep』に掲載された2014年の研究は、「BHLHE41遺伝子」の変異がショートスリーパーに関係していることを発見した。その変異は、「ノンレム睡眠を維持しながら全体的な眠時間を短縮し、かつ睡眠不足の影響に抵抗力を与える」のだという。
さらに『Neuron』に掲載された2019年の研究では、「ADRB1遺伝子」の変異があると、自然に睡眠が短くなることを明らかにしている。だが、これはかなり稀な変異で、10万人に4.028人しかいないそうだ。

photo by Pixabay
本物のショートスリーパーはかなり珍しい
この研究から1つ言えるのは、本物のショートスリーパーはかなり少ないということだ。本当の意味でショートスリーパーと言える人は人口の1%よりずっと少なく、実際に遺伝的な裏付けのあるショートスリーパー家系は、これまで50家族ほどしか見つかっていないという。
本物のショートスリーパーがそれだけ珍しいということは、自称ショートスリーパーの中には勘違いをしている人も大勢いるだろうということだ。
クーガン氏は、「6時間未満の睡眠でスッキリできると話す人の大半は、勘違いだと思います」と話す。
そうした人は、短い睡眠に慣れてしまっただけなのだそうだ。だから一時的には問題なかったとしても、長期的には悪影響が出る可能性はあるようだ。
ただ健康的な睡眠時間は、一生のうちに変化するものだ。例えば、子供や青年なら、大人よりも長く眠るものだろう。
またより大切なのは睡眠の質であるとクーガン氏は言う。そして本物のショートスリーパーは、この点でも本物で、短時間でも良質な睡眠を経験しているのだそうだ。

photo by Unsplash
起きている時間を長く使えるショートスリーパーは有利か?
著名人の中にはショートスリーパーとされる人が大勢いるような印象があるが、やはり睡眠時間が短くてすむ体質は人生でも有利なのだろうか?クーガン氏自身は、ショートスリーパーの人が必ずしも成功しやすいとも、眠らないことで知られる著名人が本当にショートスリーパーであるとも思っていないようだ。
それでも、ショートスリーパーは1日のうちで活動できる時間が長いので、有利な面はあるかもしれないとクーガン氏。だが、それが神話のようになっている部分もあると付け加える。
例えば、英国の首相を務めたマーガレット・サッチャーもショートスリーパーだと伝えられているが、それは彼女のイメージにぴったりだから広まった伝説かもしれない。彼女は「鉄の女」の異名をとるほど、強硬な政治姿勢を貫いた政治家だった。
References:Does short sleeper syndrome really exist? | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo