
好奇心旺盛で多趣味なご主人と明るい奥さん、すくすく育つ息子に囲まれた飼い犬・マックス。「寝て、散歩して、食べて、また眠る」それだけと侮るなかれ。家族の日常、そして奇妙な人間社会を犬の目から語るワンダフル・ストーリー。※本記事は、高見龍也氏の小説『吾輩は犬である』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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四
さて、少々固い話になってしまったので、話題を変えよう。
吾輩にとって、食事の次に楽しみなのが毎日の「散歩」である。
特に毎朝の散歩は、ご主人が自分の運動不足解消を兼ねているらしく、二十~三十分ほど散歩してくれるので嬉しい。
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犬は、漱石氏の小説に描いてある猫のように自分の気が向いた時にフラッと家を出て歩き回り、近所の猫の友人と話をしたり、暖かな場所で日向ぼっこをしたりすることができないので、散歩が最高の楽しみである。
朝、ご主人がリード紐(犬の散歩用の紐)をつけて、玄関の外に出ると、吾輩はまず道路に出て家のブロック塀にオシッコをする。
なにせ、前の日の夜十時に寝る前のオシッコをして以来九時間は経っているのだから、実に気分爽快で気持ちがいい。
ここの家のご主人は、吾輩が家の中に置いてある犬用ケージのオシッコ・マットにオシッコをするのは、家の中が臭くなるから嫌らしい。
この家に来て初めの一ケ月は、そのことが分からなかったが、吾輩が犬用ケージの中のオシッコ・マットの上でオシッコをすると、えらく悲しそうな目で吾輩を見るし、家の外でオシッコをすると、えらく嬉しそうな顔で「マックス、よくやった!」と頭を撫でてくれるのでご主人の心を推測できた。
いくら犬だって、人間の悲しい、嬉しいぐらいの感情は推測できる。