2015年に国連で採択されてから多くの企業が取り組んでいる「SDGs(持続可能な開発目標)」。環境やエネルギー問題、働き方や経済成長などに関連する目標が含まれることから、「CSR(企業の社会的責任)」、慈善事業やボランティアの一環ととらえている企業も少なくない。そんな中、「僕のやっているSDGsはCSRではない、きちんと儲けさせてもらいます」と公言しているのが、総合スポーツメーカー・ミズノ株式会社の森井征五氏。その言葉の真意と、彼がベトナムで展開した運動プログラム「ミズノヘキサスロン」について、本人にお話を伺った。
ベトナム小学校の体育授業を劇的に変えたミズノヘキサスロンとは?

ミズノヘキサスロンは2012年に、スポーツメーカー・ミズノが開発したプログラムで、公式サイトでは以下のように説明している。
「スポーツを経験したことがなく運動が苦手な子どもでも楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなど運動発達に必要な基本動作を身につけられるよう開発された運動遊びプログラム」
「ヘキサスロン」とは、ギリシャ語で6を意味するヘキサ(hexa)と、競技を意味するアスロン(athlon)を掛け合わせた造語。その名の通り、以下の6つの種目を計測するスポーツテストとこれらの種目を混合し作成した「遊びプログラム」から構成されている。
(1)25m走
(2)25mハードル走
(3)立ち幅跳び
(4)エアロケット投げ
(5)エアロディスク投げ
(6)ソフトハンマー投げ
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ミズノヘキサスロンの特徴は、「楽しい」ことが大前提で、子どもたちが笑顔で遊びながら「走る」、「跳ぶ」、「投げる」といったスポーツに必要な基本動作を習得できるという点にある。
「CSRではなくビジネス」という言葉の真意は?

この独自のプログラムをベトナムの子どもたちの健康のため、同国の小学校の体育の授業に導入するといった事案を成功させたのが、「ミズノヘキサスロン」の事案責任者・森井征五氏だ。2015年にベトナムでの普及活動を開始し、現在は同国の63都市約200校の小学校においてミズノヘキサスロンを活用した体育授業が展開されている。
「最初は、ベトナムで名前も知られていない日本の会社から、僕のようなおじさんがやってきて、ミズノヘキサスロンを小学校で展開しましょうといっても、相手にされないだろうと思っていました。でも難しいからこそ、それを突破して、しっかり会社として儲けさせてもらって、それを自分の出世に繋げようと思ったんです。ですから、最初のきっかけは出世欲ですよ(笑)」
と、森井氏は関西人特有のユーモアを交えて当時を振り返る。しかし、この言葉にこそ、企業が「SDGs」を本当の意味で成功させるためのヒントがあるのではないだろうか。先程の冗談ともつかないような言葉のあと、森井氏は次のように続けた。
「『これは社会貢献なんです』とCSRという形でスタートすれば、例えば事案がうまくいかなくなった時に『いや、これはCSRですから』と言って、言葉は悪いですが、現場は逃げることができてしまう。欧米などではビジネスと社会貢献が二項対立のような概念として捉えられていることも知っています。ミズノがスポーツ用品と、それを使ったスポーツ振興を通じて社会に貢献するというのは、とても崇高な理念だとも思います。でも、私としては最初のスタートラインでしっかりビジネスをさせていただき、そこで得たプロフィットで社会に貢献する。それこそが、社会からの我々に対する期待値なんだという思いで、腹をくくってきました」
きっかけは、ベトナムの小学校で見たショッキングな光景

そもそも、森井氏は最初からミズノヘキサスロンを展開しようとベトナムへ渡ったわけではない。当時のミズノグループはベトナムに、OEMに関連する生産管理の現地法人はあったものの、商品の販路は持っていなかった。そこで、マーケティングリサーチのためにベトナムを訪れた森井氏は、たまたま知り合ったベトナム政府の関係者のすすめで、現地の公立小学校の体育の授業を見学。そこで見た光景にショックを受けたそうだ。