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武の墓標を訪れた一行…言葉を噛み締めながら語られた彼の人生とは

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人生を変えてくれた恩人を訪ね異国の地に根を下した少年、武。朝鮮戦争の休戦開始から数年後の韓国と日本を舞台に彼と家族たちのその後を描いた物語、感動のフィナーレ。※本記事は、丹波燐氏の小説『二つの墓標 完結編』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

前編

ユジンの母親と挨拶を交わし、父親の墓参りを済ませた一行は、郭が納めた武の墓標へ向かった。

「武さん、わかりますか? あなたのお父様とお母様ですよ……」ユジンは嗚咽した。

「武、ゴメンネ! あなたを置き去りにした母です! 許してください! 許して……」

「武! 立派になったんだな。わしは何もしてやれなかった……。しかし聞けば真直ぐに生きたお前がいた。誇りに思います。人生は長短ではない。過程ではないか。郭さんに礼を尽くします。武、ありがとう」

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しばらくしてユジンの母親が、

「みなさん。実はユジンが武さんを我家に連れて見えたとき、私は一目で娘の気持ちが理解できました。戦争で混乱していた時期でもありましたのに、前を向いて懸命に生きようとする姿がありありとしていて、この方ならと……。

父親はかなりひどい言葉を彼にぶつけました。しかし彼は『今の自分が未熟者だと言われるのでしたら精進して出直します。ですからユジンさんとお腹の子は僕に面倒を見させてください』と、キッパリ言ってくださいました。本当はあの人も許したかったのですが、娘の軽率な行動で武さんに迷惑をかけたと思っていたのですよ。

そして娘と子供は李の家で引き取り、武さんには新しい人生を再び歩んでほしいと思っていたはずです。その後は彼が軍で働く様子を郭さんから聞いたりして気にしていました。『母さん、武は意外とやるぞ。あれなら工場を継いでも大丈夫だろう』なんて気の早いことも言っていたのですよ。男兄弟はソウルで自立していましたので。もうその工場もなくなりましたけど」

ユジンの母親は言葉を噛み締めながら話し終えた。

「お母様、有難い言葉です。武の人となりが、よく分かりました。さてこの先のことですが、どのようにお考えですか?」

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