
NHK大河ドラマ『どうする家康』第2回「兎と狼」の冒頭。松本潤が演じる松平元康(のちの徳川家康)誕生の瞬間が描かれたが、生母の於大の方(松嶋菜々子)が寅の年・寅の日・寅の刻に生まれたということをことさら強調したかった理由は、その後すぐに明らかになった。
参考:岡田准一の織田信長はまさに狼 『どうする家康』への貢献度を読む
今川義元(野村萬斎)が驚くほどあっけなく織田軍に討たれ、その勢いに乗る織田軍に大高城を包囲されてしまった元康。恐怖に震えながら、どうしてすぐに逃げなかったかと後悔するも、時すでに遅し。それにしても、元康はなぜ、こんなにも震えるほど織田信長(岡田准一)を恐れるのか、元康の幼少期のトラウマの原因、信長との出会いが描かれた。
そこで幼い頃の元康(当時は竹千代)を演じたのが川口和空だ。凛々しい眉と目元が松本潤の印象と重なり、SNS上でも「(子役として)全く違和感がない」と話題になった。2022年に放送されたドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)で毎田暖乃演じる万理華のイケメン同級生タケルくんで爽やかな印象を残した川口。本作では岡田准一に相撲で投げ飛ばされるというアクションにも挑戦。アクションに関しては松本潤も、子役として登場した川口和空も岡田准一から丁寧な指導を受けたという。その甲斐あってか、物語の中で竹千代は信長に見事に投げ飛ばされている。
「かわいいのう。白い子兎のようじゃ。食ってやろうか!」というのは、尾張に人質として送られてしまった竹千代に対する信長のセリフ。飢えた狼のように威圧感たっぷりに奇抜な格好をした飢えた狼のような信長を前に、竹千代はただ怯えるしかない。当時の信長が相撲をとることにハマっていたのか、竹千代は毎日のように相撲の相手をさせられ、信長やその仲間にひたすら投げ飛ばされた。
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竹千代と信長の間には圧倒的な力の差があり、人質としてただ軽んじているだけかと思いきや、信長は父である織田信秀(藤岡弘、)が竹千代を斬るよう家臣に命じたときに間に入り、止めている。強面の父の強引な言い分にも怯むことなく「竹千代はこの信長が預かりまする」とまで言い、命を救ったのは信長だった。
ただ、「親父殿、こやつは俺のおもちゃじゃ。勝手なことをされては困りますな」と信秀に言った言葉も本心なようで、相撲で投げ飛ばされた竹千代が「地獄じゃ」とつぶやけば、「この世は地獄じゃ!」と信長はうれしそうに笑う。
尾張での地獄のような人質時代において、ただ言いなりになるだけではなく、竹千代は少しずつ成長していた。「弱ければ死ぬだけじゃ」「白兎! どうした、爪を立てよ」という信長に「違う!」と抗う声にも悔しさがにじむ。竹千代は信長を倒し、腕を締め上げた。「竹千代は兎ではない」「竹千代は寅じゃ! 寅なんじゃぞ」と狼のような信長に歯向かった。
逆らう竹千代を信長は許すどころか、「待ってました!」とばかりに「そうじゃ、その目じゃ!」「その目だけは忘れるな」と我が子の成長を喜ぶ父のような眼差しを向ける。ただ力があり、恐ろしいだけでなく、何を考えているのか分からない……それが信長。竹千代時代のトラウマが続いてしまうのは致し方ないこと、そんな緊張感漂うやりとりを岡田准一相手にやり遂げた川口和空に拍手を送りたい。
最終的に天下人となった徳川家康の人生では、人質時代がその人間形成に大きく影響しているといわれるが、信長のもとで地獄のような思いを味わったことは確かに影響がないわけがないと思える描写の連続を描いた第2回。今後も、戦国時代を生き抜く元康のあたふた(?)奮闘ぶり、信長との関係性の変化に注目していきたい。(池沢奈々見)