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【小説】目撃者捜しのやり直しを決心した“老婆の証言”とは

幻冬舎ゴールドライフオンライン

フリーライター左沢のビジネスパートナーが磐梯吾妻の山中で謎の女と心中した。疑問をもった左沢は事件の真相を明かにすべく捜査を行うが、彼がそこで見たのは、混乱する教育と過当競争を生きた戦後のベビーブーマーたちの深いこころの闇だった。団塊世代が残した功罪と、翻弄される団塊ジュニアたちの苦悩を描いたヒューマンサスペンス。※本記事は、三苫健太氏の小説『団塊へのレクイエム』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

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ランニングマシンはクールダウンのフェーズに入り、徐々に速度を落としている。左沢はフェイスタオルで首筋の汗を拭きながら歩調に合わせて息を整えていった。窓の外には、正面の駅ビルの屋上から顔を出したばかりの十六夜(いざよい)の月が赤みを帯びて輝いている。

左沢はマットに移動し全身のストレッチを始めた。ガラス越しに見えるスタジオではエアロビクスのレッスンが始まった。ヘッドセットを装着して鏡を背にして立つ弥生が見えた。左沢が片足を手すりにかけて腰を落とし再び伸び上がったとき、弥生と目が合った。左沢に気づいた弥生は悪戯(いたずら)っぽく片目をつぶって見せた。

(今夜はとことん付き合うわよ)

そんな弥生の声が聞こえてきそうだった。左沢は慌てて手すりから足を外し、どっかりとマットに尻もちをついた。

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(勘違いしてやがる)

左沢は舌打ちをした。

《仕事が終わってから付き合ってほしい。二十一時に駅前の駐車場で待つ》。夕方、左沢はメールを弥生のスマホに送信した。

《左沢さんとデートだなんて夢みたい。ご指定の時刻に待っています》。弥生はすぐに絵文字をふんだんに入れて返信してきた。

もちろん、弥生が期待するような甘い気持ちで誘っているのではない。今夜の目的のためには、女性の弥生の手助けが必要なのだ。

左沢は足を組み、目を瞑った。

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