JFR 深作映画の誕生が、日本映画史における特異な瞬間に一致しているのは明瞭です。彼はヌーヴェル・ヴァーグの映画作家たちのように、スタジオの外で芸術的独立性を探すのではなく、システムの内側で古典的な語りを根本的に変化させようとしました。彼の演出、選択は、ヤクザ映画のあらゆる「古典的」伝統を拒絶しながら、特有な視点を作品に取り込んでもいます。
結果的に、彼の新しいヤクザの表象は、時代とともに映画の観客が変化し、信頼できなくなったことに感づいていたプロデューサーの商業的な戦略にも対応するものにもなりました。つまり、深作は、映画産業を真正面から攻撃するのではなく、その中心にいながら、既存の映画のジャンル自体を崩壊させたのです。
――深作以前の世代の日本映画と比較した際の、深作映画の特徴的な美学とはどのようなものなのでしょうか?
JFR 深作欣二監督は、観客をいかに揺さぶるかを探求しました。手持ちカメラの映像は、ほぼドキュメンタリー的であり、われわれに、前世代の騎士道に則った物語と完全に対立する語りの現実性を感じさせます。同時に、まるで、現実そのものからフィクションを引き出すかのように装いながら、映像を停止し、言葉を重ね、ナレーションも組み込む。ジャンルや方法論を混在させ、ある面では、その異化効果を強調しているとも言えるでしょう。
この映画作家は、無秩序に見えながら、それらをすべて秀逸にコントロールしています。フレームの揺れは、構図やショットの正確さへの障害には決してなってはいません。彼の映画世界は、空間的な論理を失った現実であり、倫理が通用しなくなった「逆さま」の世界なのです。戦後のトラウマのもと、資本主義の野蛮な近代化に晒されている日本の現実は、観客に内省を強います。深作は、過去の枠組みすべてを爆発させるのです。
唯一無二の映画作家として
広告の後にも続きます
――あなたは2014年の夏にパリ、シネマテーク・フランセーズで、深作欣二監督の海外では最大規模となる回顧上映を開催されています。どのようないきさつで、この年に回顧上映を企画されたのでしょうか?
JFR とくに、修復された作品群の劇場公開など大きなイベントがあったわけではありませんでした。私は、80年代に「仁義なき戦い」を見て以来、彼についてさらに知りたいと思い続けてきました。しかしながら、日本のスタジオで製作された映画は、長い間、フランスの観客にとって未知のものでした。時とともに、日本映画に関心のある配給会社やDVD、あるいは、ビデオの販売会社のおかげで少しずつですが、知られるようになってはいました。最大限に深作欣二監督作品を上映し、彼が「映画作家」であるとフランスの観客に理解してもらうことは必要不可欠である、と長年考えていたのです。それが2014年に実現しました。
シネマテークでの回顧上映には、ジャンル映画の専門家やシネフィルのみならず、多くの観客が深作欣二を発見しにやってきました。とくに、東映のおかげで、数多くの作品をプログラムできたことに、大変感謝しています。
――あなたにとっての深作欣二作品の魅力とは何でしょうか?
JFR 彼の作品の魅力は、大衆的な映画でありながら、かなり個人的な部分がある点です。彼をほかの監督と混同することはできません。かなり陰鬱で、革新的であり、かつ、まったく幻想がないのです。だからこそ彼の映画が好きです。とくに「仁義なき戦い」のシリーズはもちろんですが、「仁義の墓場」(75)も好きな作品の一本です。この作品は、松竹ヌーヴェル・ヴァーグの映画作家とはまったく違ったやり方で、日本映画の現代性に大きく寄与していると思います。
しかし、私にとっての重要な発見の一つは、1966年に撮られた「脅迫(おどし)」です。この作品こそ、本物の「ヌーヴェル・ヴァーグ」の作品ではないでしょうか。
映画作家を束縛するとされていた映画産業のシステムの中で、映画的なラディカリズムを持ち、劇的に形式を破壊し、かつ政治的に鋭利な視点を自由に体現したのがまさに深作欣二です。今日、彼の後継者と言える監督がいるのかと言えば、それに答えるのは大変難しいと思います。現代の日本には、深作の時代にあったエネルギーを再び見出すことができないからです。
――2023年、深作欣二監督の没後20年を迎えました。現在、深作欣二作品を見ることに、どんな意味があると考えていますか?
JFR 深作欣二監督作品における個人の関係性はたびたび、権力と暴力の上に成り立っています。一見、男性的な世界観のように見えますが、実のところ、性別や階級といった括りを越えた、万人対万人の闘争の世界であり、それを深作欣二監督は描いています。実質的な遺作「バトル・ロワイアル」(00)がそのことをはっきりと示しているのではないでしょうか。
その観点から見ると、彼の映画における女性の扱いは、残酷な関係性、強制的な所有、野蛮な放縦のある種の表現です。しかしながら、深作欣二監督は、女性に対する男性を肯定的な登場人物としては捉えていません。むしろ、社会不適合者として描いているのです。
取材・翻訳=槻舘南菜子 制作=キネマ旬報社(キネマ旬報2023年2月上旬号より転載)
深作欣二(ふかさく・きんじ):1930年生まれ、茨城県出身。53年、東映に入社。「風来坊探偵 赤い谷の惨劇」(61)で監督デビュー。67年からはフリーとして東映、松竹、東宝、大映などでも活躍。73年から始まった「仁義なき戦い」シリーズは大ヒットを記録。同作を筆頭とする実録ヤクザ映画、現代アクションをはじめ、SF、時代劇大作、伝奇物、文芸物など幅広いジャンルの娯楽作品を手掛ける。実質的な遺作となった「バトル・ロワイアル」(00)まで、生涯に手掛けた長篇劇場映画は全60作。2003年、ガンのため死去。享年72。
ジャン=フランソワ・ロジェ(Jean-François Rauger):1959年生まれ、フランス、ストラスブール出身。大学で政治学を学び、84〜88年国立映画センター(CNC)でリサーチを担当。パリ第3大学で教鞭を執ったのち。92年にシネマテーク・フランセーズに入り、プログラム・ディレクターに就任。2014年には深作欣二特集を企画・実行した。映画批評家として仏日刊紙『ル・モンドLe Monde』を中心に執筆。アルフレッド・ヒッチコック、ジャック・ターナー、サミュエル・フラー、ルチオ・フルチなどについての著作もある。
©東映 ©キネマ旬報社

◉東映チャンネルでは1月から9カ月にわたり、全51本という過去最大級の規模で監督作品を特集放映。代表作から希少なドキュメンタリー作品まで、反骨のエネルギーにあふれた数々の作品を、ぜひこの機会に!
東映チャンネルの公式サイトはこちら
【没後20年総力特集 映画監督 深作欣二 Vol.1】
2023年1月放送予定
●仁義なき戦い 4Kリマスター版[R15+]
22日(日)14:00-16:00
●仁義なき戦い 広島死闘篇 4Kリマスター版
22日(日)16:00-18:00
●仁義なき戦い 代理戦争 4Kリマスター版
22日(日)18:00-20:00
●県警対組織暴力 4Kリマスター版
21日(土)16:00-18:00
●仁義の墓場
22日(日)20:00-21:50、27日(金)13:00-15:00
●やくざの墓場 くちなしの花
21日(土)18:00-20:00、30日(月)13:00-14:50
●解散式
21日(土)14:00-16:00
●北陸代理戦争
21日(土)20:00-22:00
●映画監督 深作欣二特番 映画と戦い続けた男
22日(日)13:00-14:00
【没後20年総力特集 映画監督 深作欣二 Vol.2】
2023年2月放送予定
●仁義なき戦い 頂上作戦 4Kリマスター版
4日(土)17:00-19:00、22日(水)20:00-22:00、28日(火)10:00-12:00
●仁義なき戦い 完結篇 4Kリマスター版
4日(土)19:00-21:00、23日(木)20:00-21:50、28日(火)12:00-14:00
●現代やくざ 人斬り与太
5日(日)16:00-17:30、8日(水)21:30-23:00、24日(金)20:00-21:30
●人斬り与太 狂犬三兄弟
5日(日)17:30-19:00、9日(木)21:30-23:00、25日(土)20:00-21:30
●博徒外人部隊
2日(木)11:00-13:00、5日(日)21:00-23:00、21日(火)20:00-22:00
●日本暴力団 組長
1日(水)11:00-13:00、5日(日)19:00-21:00、20日(月)20:00-22:00
●映画監督 深作欣二特番 映画と戦い続けた男
4日(土)16:00-17:00、26日(日)20:00-21:00