
古代ギリシアの青銅器時代、約4000年前のエーゲ海の島々に住んでいた古代人のゲノムを解析したところ、意外な事実が明らかとなった。
エーゲ文明が栄えていた当時、その地域に住む人々には、「いとこと結婚する習慣」があったという。
『Nature Ecology & Evolution』(2023年1月16日付)に掲載された研究ではさらに、「ミケーネ文明」の「ある家族の遺伝的な家系図」まで作成されている。
現代のDNA解析技術が、古代ギリシャ人の家系図を紐解く
100年以上前、考古学者のハインリヒ・シュリーマンが「アガメムノンの黄金のマスク」で有名な「ミケーネの竪穴墓」を発見したとき、彼はそこに埋葬されていた人々の関係をただ推測するよりなかった。
アガメムノンの黄金マスク /image credit: WIKI commons CC BY 2.0
だが現代科学の進歩のおかげ、ギリシャのようなDNAが保存されにくい気候の地域で見つかった古い遺伝子でも、詳しく分析することが可能になった。
今回、ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所をはじめとする研究チームは、新石器時代から鉄器時代までのエーゲ海周辺に暮らしていた人々のゲノムを100以上分析している。
その成果の1つが、紀元前16世紀のエーゲ文明の1つ、ミケーネ文明で生きたとある家の家族関係を明らかにできたことだ。
それは遺伝子をもとに作られたいわば「家系図」で、古代地中海地域全体で見ても初の試みであるそうだ。
それによると、その一家の息子たちの中には、大人になっても親がいる集落で暮らしていた者がいたようだ。少なくともその子たちは、家の中庭にある墓に埋葬されていた。
また、この家に嫁いできた妻の1人は、姉(あるいは妹)を一緒に連れてきていた。と言うのも、その姉の子供も同じ墓に埋葬されていたからだ。

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いとこ同士で結婚する習慣が明らかに
もう一つ、意外な発見がなされている。4000年前のギリシャ本土やクレタ島をはじめとするエーゲ海諸島では、いとこ同士の結婚がごく普通に行われていたということだ。
いとこ同士の結婚は、つまりある人の孫同士の結婚だ。現代社会では、地域によっては近親婚とされ、禁止されていることもある(日本では可能)。
この研究の筆頭著者Eirini Skourtanioti氏は、「世界各地で集められた古代ゲノムは1000以上公開されていますが、このような厳格な近親婚は古代世界では例のないものです」と説明する。

ミノーアの女神の姿をモチーフに、蛇の代わりにDNAの鎖を持って描かれたも図。オレンジと赤の系図は、1番目と2番目のいとこの間に内縁関係があるという研究結果を指している / image credit:
なぜこのような特殊な結婚制度ができあがったのか?
はっきりしたことは不明だが、Skourtanioti氏は自分たちの土地を守るためではないかと推測する。これは農地が相続によってバラバラになるのを防ぐためだったのかもしれません。いずれにせよ、こうした習慣のおかげで、一族は1つの土地でずっと暮らしていくことになります。これは例えばオリーブ栽培やワイン栽培では重要なことですただしこれはあくまでも仮説にすぎず、いずれまた違った真実が明らかになる可能性はある。
「確かなことは、古代ゲノムの解析から、大昔の家族構成について今後も素晴らしい事実が判明するだろうということ」と、Skourtanioti氏は述べている。
References:Ancient DNA reveals admixture history and endogamy in the prehistoric Aegean | Nature Ecology & Evolution / Marriage in Minoan Crete | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo