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「認知症になってしまいたい…」受け入れがたい、みじめすぎる現実

幻冬舎ゴールドライフオンライン

※本記事は、松谷美善氏の書籍『泥の中で咲け』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

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それからの私の生活は悲惨だった。

まだ七十歳を過ぎたばかりで体は動くのに、息子が嫁を連れて家に頻繫に出入りするようになった。娘も急に家に来るようになった。子どもたちは、母親が若い男に狂ったか、本当にぼけてしまったと思ったようだった。毎日のように誰かに監視され、とても不自由を強いられた。

子どもにしてみれば、そう思うのだろう。子どもの監視の目を盗んで、私は警察に嘆願書を書いた。彼に騙されたほかの高齢者からも、同様の署名が集まっていると聞いたからだ。

坂本曜のやったことは悪いことだけど、あの子は心の底から悪い人間ではない。これだけは私自身が深く信じて、疑っていなかった。

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「なんとか坂本曜の罪を軽減してください。なんとか彼に、やり直しのチャンスをお与えください」

拙い文で、平仮名だらけだったけど、必死に便箋に文字を記した。

「坂本曜が家に来て、幸せでした」で締めくくった手紙を、地域の警察署長に送った。

それから、私は心を閉じた。心を閉じていなければ、とても耐えられなかった。

近所の人からも、好奇の目で見られ、息子や娘のつれあいには、当たり前のようにいくつもの嫌がらせをされる。食事も満足に与えられずに、外に散歩に出る機会さえ奪われた。

それから間もなく、私は施設に入れられることになった。施設とは名ばかりの、質素で古びたマンションだった。サービス付き高齢者向け住宅とは名ばかりで、食事はとても粗末なものだった。

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