
史上初めて、人間の「脳オルガノイド」がマウスの脳と融合して、視覚刺激に反応する瞬間が目撃されたそうだ。
脳オルカノイド(ミニ脳)とは、ヒト幹細胞を培養し実験室で作製した、脳に似た構造の小型の組織体のことである。
人間のミニ脳をマウスの大脳皮質に移植すると、3週間のうちに両者の間でシナプスが結合。マウスの脳からは血管が伸びて、脳オルガノイドに栄養を与えようとすらしていたとのことだ。
ミニ脳が外部刺激に反応したのを初めて確認
ヒト脳オルガノイドは、いわば人間の脳の3Dミニチュア(ミニ脳)で、神経の発達や障害を研究するモデルとして利用されている。人間の幹細胞から作られるヒト脳オルガノイドには、小さいながらも本物の脳のような神経活動がある。
だが周囲の組織と結びついて、外部刺激に同期して反応することが確認されたのは今回が初めてだそうだ。
それが難しかったのは、技術的な問題があったからだ。これまでの電極アレイでは、そのときのわずかな電気活動を記録できなかったのだ。
そこでカリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、プラチナ・ナノ粒子で透明なグラフェン微小電極アレイを開発し、このハードルを乗り越えることに成功した。

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マウスの脳とヒト脳オルガノイドが融合する様子を観察>
マウスの脳とヒト脳オルガノイドが融合する様子を観察>
マディソン・ウィルソン氏らが行った実験では、マウスの大脳皮質にヒト脳オルガノイドを移植。それから白色光(視覚刺激)で照らして、そのときの神経活動を新開発の電極で観察した。
するとマウスの脳はもちろんのこと、移植されたヒト脳オルガノイドでも、視覚刺激に対して同じように反応することが確認されたという。
この実験では、視覚刺激が脳オルガノイドに電気生理学的反応を生じさせ、それが周囲の大脳皮質の反応と同じであることが明らかになりました(ウィルソン氏)その様子は文字通り”目撃”されている。二光子イメージングという高性能顕微鏡で観察したところ、マウスの血管が脳オルガノイドに伸びて、栄養とエネルギーを与えようとしていることがわかったのだ。
さらにマウス脳と脳オルガノイドでは脳波のシンクロも見られた。
ウィルソン氏らによれば、移植から3週間でヒトとマウスの大脳皮質組織が機能的に結合したそうだ。

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ミニ脳は人間の神経系の解明に役立つ
結局、この実験では11週間続けられ、ヒト脳オルガノイドとマウスの大脳皮質が機能・形態的に統合される様子が観察された。こうした脳オルガノイドと神経記録技術は、神経レベルで病気をモデル化するのに役立つとのこと。
いずれは、患者それぞれの遺伝子に起因する病気の治療法の開発、ダメになった脳の一部を脳オルガノイドで治療する方法といった研究にも使えるかもしれないそうだ。
この研究は『Nature Communications』(2022年12月26日付)に掲載された。
References:Multimodal monitoring of human cortical organoids implanted in mice reveal functional connection with visual cortex | Nature Communications / Human “Mini Brains” Observed Responding To Visual Stimuli For The First Time | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo