
鹿児島県知事として奄美大島の視察へ訪れた光三。薩摩藩の支配下にあった黒糖地獄の時代から本土に利用され、搾取され続けてきた島の姿に衝撃を受ける。その社会構造を打破するべく、男が下した驚愕の決断とは――。※本記事は、小池光一氏の書籍『ケンカ知事、南の島へ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
第一章 知事就任
総務部長や市長に、大島支庁長に任せておけばいい奄美に、知事が何をしに行くのかという顔をされるのは不愉快極まりない。
別に、遊びで行くわけではない。それに総務部長のヤツ、いかに筆頭部長といえども、あれは知事に対する態度か。どうもヤツは最初から自分に反感を持っているような印象が拭えない。言葉の端々に、それを感じる。なぜなのかは、見当がつかないが。
光三は庁内の実力者を敵にまわすと仕事に差し支えが生じるのを承知しながらも、苛立ちが収まらずに秘書課長を呼びつけた。知事と総務部長の応酬を聞き及んでいるはずの秘書課長は、端正な顔に緊張感を帯びて入室してきた。君は総務部長に本官が奄美に縁があるのを喋ったのかと詰問する光三に、秘書課長の目が泳いだように見える。
「他言は無用だと命じたろうが」
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姿勢を固くした秘書課長が、低い声を絞り出した。
「牛山部長が、知事の奄美ご視察を非常に強く反対されるものですから、つい知事にはお身内のご事情もおありだと。まことに申しわけございません」
「まあいい。隠さなければならんことではないし、いつかは知られるだろう」
秘書課長が深々と頭を下げる。
「だけどな、末永君。なんで市長は本官が奄美行きを希望しているのを知っているんだ。誰か庁内のお喋りから情報を仕入れているとしか思えん。違うか?」
すぐには返答しない秘書課長の困惑した顔を見た光三は、容易に気づかされた。