
『水の中にいるようにゆったりと、軽やかに』。何気ない毎日を切り取ったり、表現力豊かに綴ったエッセイ集。※本記事は、深山れいこ氏の書籍『金魚』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
【前回の記事を読む】本物の桜海老を使っている「海老満月」を見たことがあるか?
朝のミックスジュース
これは、私の自慢なのだが、ウチの旦那の見た目は実年齢よりかなり若い。今年72歳になるのだが、皺も少ないし、髪も黒々している。お肌も黄ばんでいない。ウチの旦那によると、これはみんな毎朝のミックスジュースのお陰なのだそうだ。その真偽の程は確かめようがないが、ウチの旦那本人が、そう信じて喜んでいるのだから、このミックスジュース作りは続けようと私は思っている。
私達と対照的なのが、私の次兄である。彼も毎朝日課のジョギングの後ミックスジュースを自分で作って飲んでいる。用いる材料もヨーグルトや酒粕は私達と同様だが、後は不味そうなものばかり選りに選って加えている。キャベツの葉、健康に良いとされる特殊なお酢、牛乳ではなく豆乳などを用いる。彼は決して美味しさを追求していない。ただひたすら健康に寄与するようにという思いで飲んでいるそうだ。私も一口兄の作ったミックスジュースを無理に飲まされたが、一口で往生した。
私の狭い経験からすると、健康を唱えている人物より、美味しいものを、美味しいという理由だけで喜んで飲み食いしている人の方が、外見が艶やかで長生きしている傾向がある。ウチの旦那の父親は、健康オタクだったが、ガリガリに痩せていて、いつも死ぬ! 死ぬ! とヒイヒイ言っていた。それでも82歳の天授を全うしたのだから悪くないが、反対に「何か美味しいものはないか」が口癖だった、私の父親は年齢より相当若く見られていたし、寝付くことなく97歳まで健康的に生き続けた。先に紹介した、健康オタクの次兄もやたら顔に皺が多い。年長のウチの旦那とは大違いなのだ。
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そこで私は思うのだ。やはり私達は美味しいと思って食べてこそ、健康と若々しさを保てるのではないかと。
ヘアーサロン
髪に白いものが混じってきたので白髪染めをしている。器用に自分でなさる方もいらっしゃるが、私はとてもじゃないが、後ろの髪を自分で染めるなんて事は出来ないので、美容院でしてもらっている。私が利用している所の料金設定は安い。カット1500円、ヘアーカラー3000円、染料にコラーゲンを加えてもらって300円の追加。カットと毛染めを一緒にすれば、500円引きの4300円と消費税になる。
私のヘアースタイルはワンレングスと言われるもので、あまり際立ったカット技術を要するものではない。髪も多くて丈夫。安価な毛染め料で何の痛痒も感じないのだ。高級サロンなら1万円くらい掛かるそうだが、私の髪は安上がりに出来ている。今日も私の髪を乾かしてくれたお兄さんが、「随分しっかりした髪なので驚きました」と言っていた。
逆に、ウチの旦那は髪が元々細くて薄い。しかし、色だけは黒々している。そして、今時のヘアースタイルが嫌いときている。彼が利用しているのは、昔ながらの「理髪店」だ。もちろん理髪師も高齢である。料金はカット、洗髪、髭剃りで私の毛染め料と同じくらいだ。一月半くらいに一度、ウチの旦那は昭和の匂いをプンプンさせながら帰宅すると、床屋で仕入れてきた地域情報を私に得々と話すのだ。彼が勢い込んで話すのに耳を傾けながら、これは江戸時代から綿々と続いて来た風情なのではないかと思ったりする。
女性が美容院で地域情報を仕入れてきたという話は少ないと思うのだが。
オーディオ
ウチの旦那はクラシック音楽のファンである。学生時代からそうで、彼のご学友達はほとんど全員クラシックファンだ。結婚した頃は、10万円未満のオーディオセットを置いていた。それが30万円になり、ついには300万円になった。今から40年も前の話だから、今とは物価が全然違う。消費者物価は4倍以上になっているようだ。その代わり、ウチの旦那は酒もタバコもパチンコもやらない。免許は持っているが、車も買ったことがない。趣味はレコード鑑賞だけ。