
舞台は北海道・根釧原野。時代の流れとともに酪農が拡大し、人間たちのみかけの暮らしがよくなった一方で、シマフクロウとサケの母なる川・ニシベツ川は汚染されてしまった。この現実を目の当たりにしたニシベツ実業高校・酪農科と水産科の生徒たちは、互いに意見をぶつけ合いながら、問題解決に向けて奮闘する。実際の調査をもとに描かれた、地域社会の未来を切り開こうとする若者たちの成長物語。※本記事は、草野謙次郎氏の小説『ニシベツ伝記』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
三.乱闘
空に積雲がいくつも浮かんでいる。
四月下旬ともなると、根釧原野にもゆったりとした南風が吹く日が何日かある。
そんなのどかな昼休み、ちょっとした騒ぎが起きようとしていた。
ニシベツ実業高校の玄関前の中庭で、大河と川原は、水産科の四年生数名と一緒に、グラウンドから演台を持ってきている。
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その演台を、芝生の真ん中に置いた。
出丸は拡声器を準備した。
大河は、拡声器を右手につかみ、やおら演台に仁王立ちになると、グッとにらみつけるように水産科棟を背に南側の酪農科棟と向き合った。
その様子を見た水産科の三年生と四年生たちは、わらわらと大河の周りに集まった。
二年生と一年生は、水産科棟三階の無線実習室や航海実習室、水産実験室から顔を出している。
出丸は三階の二年生と一年生に、合図を送った。