
日本の現在、そして未来―。少子化の中で運命に翻弄されながらも懸命に生きる若者を描く社会派小説!※本記事は、花田由美子氏の小説『サトゥルヌス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
一九九七年 ナオミ@社員寮
「日頃の行いがなってないからや」
義務と義理の社会を生き抜いた祖母の背中は丸くなり、ますます小さくなった。引き戸にかける節くれだった十本の指は日焼けのせいで肌荒れさえも目立たない。今でも毎日、草取りをしてるんかな。
「親不孝は親譲り」
やっぱり。こういう反応な気はしてた。おばあちゃん。我慢ばかりの人生を耐え忍んだからといって誰もが包容力アップ、というわけにはいかないみたい。動揺していた祖母の視線がナオミの腹部に無神経なほどに定まった。
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「信用を築くにゃ何十年もかかるのに、失うのは一瞬や」
まばたきをしない。
「恥ずかしい孫を置いておくわけにはいかん。お母さんの躾が悪いからお母さんの責任や。子どもは厳しく育てないかんのに。そいやけ体が大人になったらすぐに子どもができて男に捨てられて」
大げさにため息をついた。
「みっともない。お母さんの世話になるしかないやん」
どこにもいくところがない。