
抗えぬ運命に絶望する彼に訪れた、唯一愛した女性との再会。次第に惹かれあう2人の時間が、30年の時を経て動きだす。※本記事は、チェ・ジョンシク氏の小説『ジャズ・ラヴァーズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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「音楽でも聴かない?」
自分の車を運転しながらヨンミは言った。彼はほほ笑んだ。彼の笑みは、いつでも肯定の意味だと彼女は知っていた。
「これはイギリスのフュージョン・ジャズ・ファンクのグループよ。あなたに聴かせようと彼らの曲を準備してきたの。軽快で、リズムがよくて、ほんの少し哀愁を帯びた美しい曲よ。グループ名はシャカタク(Shakatak)〔イギリスのジャズ・ファンクバンド〕っていうの。このグループ、聞いたことある?」
ヒョンソクの顔つきから、彼がこのグループについて確実に聞いたことがあるのが、彼女にはわかった。「知ってるのね」彼女は嬉しそうに訊いた。
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「もちろん知ってるよ。伝説的なクロスオーバー・ジャズバンドだろう? 俺はこのグループのピアニスト、ビル・シャープ(Bill Sharpe)の演奏スタイルがとても好きなんだ。彼はシンプルなメロディーだけで素晴らしい音を作り上げる」
「このグループの曲の中であなたが気に入っている曲は?」
彼女は彼に訊いた。
「〈インヴィテーションズ(Invitations)〉〔アルバム『インヴィテーションズ(Invitations Album, 1982)』〕」
「まあ! ほんとう? ほかには?」
「〈ナイト・バーズ(Night Birds)〉〔アルバム『ナイト・バーズ(Night Birds Album, 1982)』〕」