
「今だって、わたしは踊り続けているの。形通り踊ることだけがダンスでは、ないんだから」※本記事は、アミュースケール氏の小説『いつもあの子は踊っている』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
12 啓蒙
「う~ん……、ぼくは、夢のなかが好きなんだ。夢や目標とかよく言われているけど、ぼくの言っている夢は、たとえば、う~ん、シューマンの『トロイメライ(夢想)』のようなものなんだ」
「ああ! あの曲ね!」
「歌っているときは、夢やロマンのなかにいるし、全てが、うっとりと微笑んで輝いているんだ」
「確かになぁ~、疲れているときや想いを馳せたいときに『トロイメライ』のような曲が流れたら、とってもいい~ね」
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「そうでしょ。だけどね、ぼくの声はちょっと粘り気があるから、ああいう感じは出せないんだ」
「ふ~ん……。それがいいんじゃないの?」
「ふぇ」
「いや、だから、それがいいのよ。その粘り気が」
「そっかぁ、そうなのかなぁ……。まあ、ぼくなりに、夢の世界を歌っていくよ。というか、いつでもぼくなりにしか、歌えないんだけど……」
サヤカは突然高々と笑い出した。