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【小説】小太刀を向けられた瞬間、なぜか嘔吐が止まらない…

幻冬舎ゴールドライフオンライン

部員同士の絆、衝突、涙、葛藤――青春のすべてが詰まった本格的スポーツ小説。 ※本記事は、岡本祐一氏の書籍『少林寺拳法拾遺物語 天地拳第一系、用意!』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

破門 柘植(つげ)虎(とら)次郎(じろう)

なるほど、昇段審査があるのか。昇段審査には年齢や修業実績による制限がある。多くの剣士がそうであるように、俺は最短コースの十三歳で初段になり、一年以上の修業の後に二段になった。三段の審査を受けるには二年以上の修業が必要だから、高校一年で受験ということになる。大会や高校受験で忙しかったから自分に関係のない昇段審査は意識になかった。

剣術は創成期から幾多の流派に分かれ、形も各流派によって異なっていた。大日本武徳会は、将来の剣道の普及・発展を図るためには各流派独自の形に基づく新たな基本となるべき共通の形を選定する必要を認め、明治四十四(一九一一)年十二月に調査委員会を発足させた。

委員会は草案作りを進め、大正元(一九一二)年十月に太刀の形七本、小太刀の形三本、合計十本の「大日本帝国剣道形」を制定した。その後、第二次世界大戦後に全日本剣道連盟が発足したのに伴い、形の名称は「日本剣道形」と改められて現在に至っている。

「一昨日、太刀七本をやったから、今日は小太刀三本だ」

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小太刀をやるってことは四段以上の受験者がいるんだな。ああ、小曽木(おそき)さんか。

小曽木さんは、小学校低学年で入門する人が多いこの世界で高校から始めたという少し珍しい部類に入る社会人剣士で、大会での上位入賞には縁がないが、地道に修業を重ねてきたまじめな苦労人だ。少し前まではそんな小曽木さんを、年齢は上、段位は上でもどこか下に見ていた。でも、今は尊敬している。

「まずは虎次郎が打(うち)太刀(たち)、小曽木さんが仕(し)太刀(たち)だ。準備せい」

打太刀は先に打ちかかって仕太刀に倒される役だが、日本剣道形では仕太刀の動きを引き出してやる役でもある。そのため、打太刀は「師の位」で上級者が、仕太刀は「弟子の位」で格下の者がやるのが一般的だ。

じいちゃん、たった今、小曽木さんを尊敬していると思ったところだったんだよ。間が悪いなあ。 祖父に教わって日本剣道形十本を覚えた俺は小学生の頃から受験する人の相手をすることが多かった。背丈があったから大人が相手でも何とかなった。覚えた、何とかなったなどと偉そうなことを言っても、精神性は四段以上の受験者に遠く及ばない。

こういう機会にその辺りを学ばせてもらえという祖父の依怙贔屓(えこひいき)は父の最も嫌うところだが、俺はありがたく享受している。

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