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傑作映画「羊たちの沈黙」に挑戦するのか! 快進撃を続ける白石和彌監督が生んだ「死刑にいたる病」

キネマ旬報WEB

ミステリー作家・櫛木理宇の最高傑作と謳われる同名小説を、「孤狼の血」「凶悪」の白石和彌監督が映画化した「死刑にいたる病」。劇場でも興行収入10億円超えのヒットを記録した本作の Blu-ray&DVDが、2023年1月11日にリリースされた。

白石和彌! 決して単なる名匠にはなるなかれ

キネマ旬報2021年9月上旬号の「孤狼の血 LEVEL2」特集で私は〝レベチな白石和彌監督は更に爆走暴走して巨匠となるも、決して単なる名匠にはなるなかれ〞と、檄を飛ばしたが、22年の監督最新作がなんと『仮面ライダーBLACK SUN』。OTTの配信ドラマだが、なんでいまさらお子様ランチを?! と侮った私が馬鹿だった。仮面ライダー原理主義者、いわゆる根っからの仮面ライダーファンにはイマイチらしいが、まさに描きたい放題の大暴走をみせる快作である。

なるほどその手があったかと、リアリスティックには描き難い政治的ネタを、ファンタスティックなフォームに仮託して、実に痛快なのだ。映画はすべからく政治的なものであるはずだが、ある意味、映画よりは一見自由がありそうなAmazonプライムだから成立した暴走なのだろうか。その白石和彌が、映画の土俵において挑んだのが「死刑にいたる病」なのである。

アンソニー・ホプキンスに肉薄する阿部サダヲの怪演

街に親しまれるパン屋の親父でありながら、24人もの少女少年を殺害したシリアルキラー・榛村大和。その榛村からの手紙により、一件のみ冤罪証明を託される大学生の雅也。すわ、連続殺人鬼にみまわれたる若者よ! 白石和彌、ジョナサン・デミの傑作「羊たちの沈黙」に挑戦するのか! 榛村に扮する阿部サダヲは、まさにアンソニー・ホプキンスに肉薄する怪演っぷり。

狙いをつけて仕込んで殺すまで一定期間を保ち、丁寧にいたぶる秩序型殺人鬼。誰もが好きになる柔和な表情ひとつ変えず、まるでパンを焼くように生爪を剝ぐのである。このあたりの描写に忖度はない。FBI見習い捜査官のジョディ・フォスターが、シリアルキラーのパルスに同調してゆくのと同様、若い雅也の狂気への接近遭遇。扮する岡田健史改め水上恒司も、異次元を浮遊するごとく見事に対峙する。

雅也は榛村の実の息子なのか?!

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面会室でのガラス越しでの両者のせめぎあい。普通なら単純に二人の顔を切り返すところを、アクリルの反射に二つの顔が浮かび、なおかつ被害者の死相も滲むというスリリングさ。開巻の水溜まりに映るショットに桜吹雪(?!)などの凝った映像がシャープに恐怖をいや増す。

だがしかし、雅也は榛村の実の息子なのか?! というあたりから新なる迷宮へと分け入るのだが、これには、森直人の快調な司会による特典映像のスペシャルトークが懇切に応えてくれよう。この他にも白石、阿部、岡田(水上)三者の音声コメンタリーや、メイキング映像、各種の舞台挨拶といった多彩な特典映像メニューはBlu-ray/DVDならではのお楽しみ。

文=塩田時敏 制作=キネマ旬報社

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