瀬戸内海に浮かぶ広島の小さな島を舞台にしたヒューマンドラマ『とべない風船』が1月6日から公開される。豪雨災害で妻子を亡くした漁師・憲二と、疎遠だった父が暮らすこの島を訪れた元教師の凛子(三浦透子)。共に心に傷を負った2人が、互いに交流する中で再生していく物語だ。主人公の憲二を演じるのは、『天上の花』(公開中)、『Winny』(3月公開予定)など、主演作が目白押しの実力派・東出昌大。キャリア10年でたどり着いた境地で見せた熱演の舞台裏を語ってくれた。

手前みそになりますが、ここまで人間を真っすぐに描いた作品は、僕のキャリアの中でもなかなかありません。おかげで、「正統派の映画をやった」と、心から感じられる1本になりました。
-それでは、改めてこの作品との出会いを教えてください。「広島で撮った『テロルンとルンルン』という中編映画が好評だった宮川(博至)監督が、長編を撮りたいと言ってる」と聞いたのが最初です。脚本を読ませていただき、「大変そうだな」とは思ったんですけど、完成度が高かったので「ぜひやらせてください」と。
-広島在住の宮川監督のこの映画に懸ける思いを、どんなふうに受け止めましたか。出演が決まった後、広島へ行き、数日かけていろいろな所を回らせてもらった際、宮川監督も一緒だったので、「なぜ家族を亡くすところからスタートするんですか」と聞いてみたんです。そうしたら、監督も若いときに、すごく近しい友人を亡くされているらしく、「『今も子どものことが忘れられない』という友人のお母さまに見てもらいたいんだ」と打ち明けてくださったんです。その話を聞き、「これは生半可な気持ちで取り組むわけにはいかない。監督がそういう覚悟を見せてくれたなら、僕もその思いを一緒に背負ってカメラの前に立とう」と。
-東出さんが演じた憲二は、豪雨災害で…