1974年12月1日「映画の日」に制定され、第48回目を迎えた優れた映画脚本を表彰する城戸(きど)賞。本年度は、対象359作品から準入賞に「ひび」と「ぼくたちの青空」の2作品が選ばれました。
35歳、失恋して心が“ひびだらけ”の浅沼深子。一度ひび割れた心は果たして修復できるのか? 「ひび」のシナリオ全文を掲載いたします。
タイトル「ひび」竹上雄介
あらすじ
浅沼深子。35歳。恋人に捨てられてから全てが億劫だ。着替えるのも、髪をとかすのも、部屋を片付けるのも。ボサボサ髪で街を歩き回り、スーパーの値引き商品を漁り、ケガで飛べない鳥にエサをやる。フラれてからの3年間、心を閉ざし、喜怒哀楽を忘れ、生きる楽しみを失った女は、ひび割れた心をなんとか保ちながら過ごしている。
そんな時、隣の部屋に蟻田陽平(45)が引っ越してくる。手土産を持って挨拶してくるなり、怒濤の質問攻めで深子の世界にズケズケと侵入。深子の心はさらにひび割れていく。
ある夜、深子はカギをなくして立ち往生する蟻田に遭遇。自分の部屋へ入れてあげるも、部屋を漁られる。すると元カレから届いた結婚式の招待状が出てくる。一週間後に迫った元カレの結婚式。深子は恋の終止符を打つべく、出席で返事をしていた。しかしやっぱり行けない。その現実を目の当たりにしたら、自分が壊れてしまいそうで。
そんな深子に対し、無神経に質問攻めを繰り返す蟻田。深子は否応無しに人生を振り返る羽目になる。悲しくなり、怒りも募り、なんだか笑ってしまうことも。深子は蟻田に振り回されるうちに、感情を吐き出すようになる。
その最中、蟻田が「見れば嫌なことから解放される」という怪しげなソフトを売りつけていることを知る。蟻田が深子に近付いたのも、それを買わせるためだった。嫌なことだらけの深子はつい買ってしまう。しかしソフトに映っていたのは、ただただ蟻田が物を破壊する映像であり、気持ちが晴れるわけではない。深子は蟻田に文句を言うも、「あんたみたいに自分で壊せない人の代わりにやっている」と言い返されてしまう。
迎えた元カレの結婚式当日。深子は、ケガしていた鳥が懸命に空を飛ぼうとする姿を見る。アタシはこのままでいいのだろうか……。
人は誰でも簡単に心にひびが入ってしまう。しかしそれを壊さないように耐え忍ぶのではなく、時には感情を吐き出して、気持ちをリセットし、再出発すればいい。
深子は、ひびだらけの自分をぶっ壊すべく、結婚式場へと走り出した。
広告の後にも続きます
◆登場人物
浅沼 深子 (35) フリーター
蟻田 陽平 (45) 隣人
佐野 匠 (9) 小学3年生
徳永 美海 (27) エステティシャン、俊介の妻
乾 一郎 (40) スーパーの店長
桜 いちご (9) 小学3年生、匠の元クラスメート
リリカ (20) スーパーのバイト
徳永 俊介 (32) 深子の元カレ
いちごの父
いちごの母
リリカの彼氏
エステの女店長
警察官
住人の女
タクシー運転手