秦建日子(「アンフェア」シリーズ)の同名小説を『SP』シリーズの波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』(2020年)でも、中村は謎の多い複雑な人物、須永基樹を演じている。
本作は「クリスマスイブの渋谷で爆破テロが起こったら?」をリアルな映像でシミュレートしたクライムサスペンスだが、須永は事件の鍵を握るIT起業家。前半では不可解な行動で観る者の興味を引きつけ、あるいはミスリードし、後半でその素顔と本当の想いを明かす段階ごとの表現や見え方の加減が難しい役だったのだが、中村はそれを絶妙な塩梅で形に。須永が心情を爆発させるクライマックスまで、自身に課せられたハイレベルのミッションをこなし、映画の緊張感を高める重責を全うした。

『屍人荘の殺人』(2019年)で演じた明智恭介の場合は、現実世界から少し逸脱した風変りな人物を、作品の世界観の中では成立するキャラクターにすることが中村の仕事だったような気がする。本作は第18回本格ミステリ大賞ほかに輝く今村昌弘の同名ミステリーを、『貞子DX』(2022年)などの木村ひさし監督が映画化したもの。大学のミステリ愛好会の会長である明智と会員の葉村譲(神木隆之介)、2人と同じ大学に通う学生で私立探偵の顔も持つ剣崎比留子(浜辺美波)の3人が、山奥のペンション「紫湛荘」で起きる連続殺人事件の謎に挑む姿を描いた。

しかも、映画では原作小説の設定はそのままに青春映画やコメディの要素もプラスされていて、明智も葉村も比留子もデフォルメされたよりクセの強いキャラクターに。それこそ明智に至ってはとても大学生には見えない傍若無人な変人なのに、原作通りの茶髪にメガネが印象的な見た目と葉村をいじくり回す掛け合いのおもしろさやバディ感が最高で、まるで違和感がない。
時折痛烈な毒を吐く比留子、彼女や明智に振り回される葉村。そんな2人と一緒にいても、明智の独特なキャラクターはまったくブレない。そのブレない圧倒的な存在感こそが、本作の思いがけない大きな「仕掛け」の鍵を握っている。中村はもちろん、それを計算した上で観客の記憶に鮮烈に残るあの明智恭介を造形したのだ。本作の鑑賞後にその視点で振り返ると、「カメレオン俳優」などとは簡単には言えない、中村の考え抜かれた芝居の精度の高さに改めて驚愕することになる。

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中村がすごいのは、そんなキャラの濃い人物だけではなく、どこにでもいそうな普通の青年も演じられるところだろう。『ウエディング・ハイ』(2022年)で演じた石川彰人は、その最たる人物だ。お笑い芸人バカリズムのオリジナル脚本を、『勝手にふるえてろ』(2017年)などの大九明子監督が映画化した本作。彰人と新田遥(関水渚)のカップルが迎えた結婚式の舞台裏を、「結婚式あるある」と次々に起こるトラブルを未然に防ぐために奔走するウエディングプランナーの中越真帆(篠原涼子)の姿を通して描いたドタバタコメディだが、クセ者ばかりの参列者のなか、新郎の彰人が誰よりも目立たない存在になっているのも皮肉が効いていておもしろい。
彰人は真面目で優しい。だけど実は面倒くさがり屋で、結婚式もやらなくていいと思っているのだが、結婚式をやらなかったことが後々の夫婦生活に悪い影響を及ぼしてはいけないと考え、遥の意見を尊重して本当はよくわかっていないのに「そうだね、そうだね」と受け流している。彼女から「どっちのウエディングドレスがかわいい?」と聞かれても、実はどっちでもいいと思っている。それでも、参列者の祝辞が長引いて余興のカットを促された時は、これも後々の生活や人間関係に響かないよう、なんとかすべての余興がやれる方法はないか中越にちゃんと交渉する。
そう、彰人はなんでもかんでも流す頭の中が空っぽの男ではないし、彼のような男性は意外と多いかもしれないのだが、そんなステレオタイプのキャラクターをとりたてて誇張することもなく自然に演じられるのが中村の強みなのではないか。
別に素のまま現場にいるとは思わない。けれど、何も特別なことをしなくても彼自身が持っている空気感と表情やしゃべり方などから伝わる優しさが、そのまま役を魅力的な人物にしているような気がする。不純物がまるで感じられない彰人は、その典型的な成功例と言えるかもしれない。
そもそも俳優が演じるのは、ジャンルムービーのスーパーヒーローや怪物といった特別なキャラクターでもない限り、私たちとそんなに変わらない人間だ。違いがあるとするならば、それは社会的な地位や職業、生活のスタイルや貧富の差で異なる服装や滲み出る雰囲気、仕草や態度だが、優れた俳優であっても、それをひと目でわからせるのは難しい。
中村が『ハケンアニメ!』(2022年)で演じた王子千晴は、まさにそうした佇まいや見た目では表現しにくい人物である。本作はアニメ制作の舞台裏を描いた直木賞作家、辻村深月の同名小説を、『水曜日が消えた』でも中村とタッグを組んでいる吉野耕平監督が映画化したもの。吉岡里帆扮する主人公の新人監督と中村扮する天才監督がアニメ界の頂点「覇権」を懸けて戦う業界エンターテインメントだが、王子は、かつては「天才」の名をほしいままにしながらも、強いこだわりからその後はヒット作を生み出すことができず、8年ぶりの復帰作にすべてを懸けるカリスマ監督だ。

つまりは、カリスマ性も感じさせる天才監督に説得力を持たせなければいけない。しかも、地方公務員からアニメ業界に飛び込み、がむしゃらに創作に取り組む新人監督の斎藤瞳(吉岡)との明確な違いを印象づけなければいけなかった。
とはいえ、新人監督も天才監督も同じ人間。文字で「天才」とか「カリスマ性がある」と書くのは簡単だが、映像で、しかも少ないシーン数でそれを観客にわからせるのはかなり難易度が高い。中村がこれまで演じてきた役の中でも1、2を争うぐらいリスキーなキャラクターだったはずだ。
だが、それをやってのけるところが、それこそ「天才」の中村倫也!メディアに登場するシーンでは優れた才能を持つ人特有オーラと輝きを放ち、プロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)と2人でいる時は感情を剥き出しにし、一人でいる時はすべてをゼロから生み出す天才クリエイターの孤独と苦悩を生々しく体現して観る者の心をも揺さぶる。失踪した王子の、失踪する前と帰ってきた後の変化にも中村の繊細な演技プランが反映されていて、王子というキャラクターをより深みのある人間にしているのも見逃せない。

こうなると、中村が次にどんなトライをするのかますます興味が湧いてくる。彼に演じられないキャラクターなど、もはや存在しないのではないか?噛めば噛むほど味が染み出てくるスルメのように、知れば知るほど可能性と魅力が増してくる稀代の演技派俳優の次なる一手に注目したい。
文=イソガイマサト(映画サイト「スカパー!映画の空」より転載)
イソガイマサト:映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。
©2019「屍人荘の殺人」製作委員会 ©2020 Silent Tokyo Film Partners ©2019「屍人荘の殺人」製作委員会 ©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
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<放送情報>
日本映画専門チャンネル
●ハケンアニメ!
放送日時:2023年1月22日(日)21:00~、26日(木)21:20~
チャンネルNECO
●屍人荘の殺人
放送日時:2023年1月7日(土)14:55~
●サイレント・トーキョー
放送日時:2023年1月13日(金)21:00~
●海月姫
放送日時:2023年1月28日(土)6:30~
※放送スケジュールは変更になる場合があります