「障がい」に対する見方や考え方について、私たち大人は残念ながら長年アップデートする機会がないままきてしまった。だからこそ、ダイバーシティの実現には子どもたちの教育も重要になってくる。
日本ブラインドサッカー協会では、子どもたちを対象に行っている体験型ダイバーシティ教育プログラム“スポ育”を実施している。スタッフや選手が小学校・中学校に出向いていって、子どもたちにアイマスクをつけてもらい様々なワークを行うというものだが、子どもたちの反応はどうなのだろうか。ダイバーシティや障がいに関して、どのように子どもたちへ伝えていくべきか、小島さんに伺った。
「今の日本は、社会構造的にどうしても障がいのある人に出会いにくいということがあると思います。探さないと出会えない。だから子どもたちも最初は視覚に障がいのある選手にどう話したらいいかわからないようで、“あの人は本当に見えないの?”“いつから見えないの?”などと僕にばかり話しかけてきます。でも、寺西がYouTubeと変わらずざっくばらんに喋っているのを見るうちに、子どもたちも普通に話して良いんだと思うようになるんでしょう。その結果、体験後に一緒に給食を食べる時間になって僕が教室に行くと、明らかに残念な顔をされることがあります(笑)。寺西の方が良かったって。まあ、いいんですけど、僕なんか見向きもされなくなるんですよ(笑)」
私たちが、障がいのある人たちに対してどうしても垣根を感じてしまうのは、会ったことがない、一緒に過ごす機会がないことが大きいのだろう。
「視覚に障がいのある人のことを知りたいと思ったら、まずブラインドサッカーを体験し、共に練習して汗を流してみたらどうでしょうか? 一緒に身体を動かし、今はコロナ禍で難しくはあるんですが、ご飯を食べたりお酒を飲んだりすることが生活の一部になっていけば、障がいのある人に対する垣根もどんどんなくなる。ブラインドサッカーで活躍する選手は本当に輝いているし、同じような障がいのある子どもたちにとってはもちろん、“スポ育”を体験した子どもたちにとってもヒーローになってほしいと思っているんです」
ブラインドサッカーの選手と触れ合い、一緒に給食を食べたいという子どもたちは、その経験をきっと楽しんでくれるはずだ。それは、誰でも一緒にプレーすれば、選手たちの競技にかける思いや行動がストレートに伝わってくるからだ。
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「彼らは純粋に、めっちゃ楽しそうにサッカーをしているんですよ。こんな言い方をしていいのかはわかりませんが、いい歳をした選手も多いんですけど(笑)、“おじさんたち、そんなに楽しい?”って言いたくなることもありますし、時間になってもまだ練習をしている若い子(チームメイト)には“もう時間だから、帰るよー”なんて声かけたりして、まるで小学生相手か? という感覚になります。目が見えないということは、ともすればネガティブに捉えられがちですが、選手たちはブラインドサッカーによって、自分で判断して、好きなように動き、主体的に取り組める、そんな自分たちが活躍できるフィールドが得られるということなんです。その喜びが楽しさに繋がり、周囲をも楽しくさせているのではないかなと思います」
できないことに目を向けるのではなく、できることに向かって取り組んでいる彼らの姿を見ることで、勇気をもらえるだけでなく、きっと子どもたちにとっても自分のあり方を考えるきっかけになるだろう。
4.ダイバーシティを大切にする取り組みが個人にもたらすもの 〜小島さんの場合〜

人見知りの傾向が強かったという小島さんの周囲には、彼を通してブラインドサッカーと出会うことになった人も多い。特に一番近くにいて、生まれた時から見守っていた両親は、ブラインドサッカーと関わるようになってからの小島さんの変化を実感しているようだ。
「この競技に出会ったことは、僕にとってよかったんじゃないかと、両親によく言われます。僕は欠点の多い人間ですし、自己肯定感もそれほど高くないんですが、ブラインドサッカーに出会って、少し自分のことが好きになりました。できることを認めてもらって、前向きに取り組めるような環境に身をおけたことがよかったのでしょう。日々学び、成長させてもらっている僕の様子を見ていて、両親は“いい仲間ができたんだね”と言ってくれます。たとえ、平均的にできないことがいろいろあっても、できるところ、得意な面を生かしながら大切な仲間と一緒に働いていく、支え合っていくことができているのを見て、そう思ってくれたんじゃないでしょうか」
小島さんをきっかけに、視覚に障がいのある人たちと出会った友人は、「なんか、抱いていたイメージと全然違った」と言うのだそう。それも、小島さんの言う“障がい者=こういう人”というひとまとめのイメージに囚われていたからだろう。私たち一人ひとりが、ダイバーシティが尊重される社会の実現に取り組むには、こういった固定観念に囚われず、積極的に知っていくことが大事なのではないか。
「協会にはボランティアの方もたくさんいますが、みんな最初はどうしていいかわからなかったんだと思います。でも、一緒に過ごすうちに自分のやれることが見つかっていきますし、そこから学べることもある。とにかく年齢や性別、障がいの有無は関係なく、まずは練習や試合を見に来てほしいですね。ここに混ざってもらえれば、視覚に障がいのある友だちがひとり、ふたりと増えていって、他に障がいのある友人もできる。そうして友だちの輪が広がっていくのがこのスポーツの魅力でもあるので、ひとりでも多くの人に興味を持ってもらいたいと思います」
「ダイバーシティ」というと、つい我々は大袈裟に考えがちだ。しかし、視点を広げ多様性を認めることで、自ずと世界は広がっていく。さまざまな人との出会いによって自分の可能性や長所に気づき、それを生かす世界が見つかることもある。小島さんの話からわかったのは、ダイバーシティは自分とは違う背景をもつ誰かのためだけではなく、自分のためにもなるものなのだということだ。
【視覚に障がいのある人との接し方をもっと詳しく学ぶ】
【導入編】盲導犬は撫でて良い?白杖とは?いま知っておくべきサステナブルな行動
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【実践編】視覚障がいの方の腕を掴んではいけない? いま知っておくべきサステナブルな行動
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【応用編】視覚障がいの方は点字ブロックが無い場所はどう歩く? いますぐできるサステナブルな行動
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text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
key visual by Shutterstock